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お言葉に甘えて抜けてきてしまったけど大丈夫だろうか、なんて考えて友達にメールを打ちながら歩く。
『やっぱり、送ってく』
ふいにあの柔らかい音が隣に並んだ。
想像よりは少し背が高くて、目を合わせるのがワンテンポ遅れる。
『あれ、もしかしてほんとに用事あった？』
LINEのトーク画面、“ごめん用事思い出した”なんて取って付けたような文面を見て顔を覗く彼は、いちいち距離が近い。
気付かれないくらいに少し距離をとって、目を逸らす。
『…深澤くん、戻んなくていいの？』
なんとなく、合わせているのが怖かった。
合わせていれば、私の知らない世界にそのまま吸い込まれてしまうような気がしたから。
『名前、知ってたんだ』
柔らかい音のあとに、嗅覚を刺激する。
バイオレットのほんのり甘い優しい香りが、淡い紫色を想像させた。
こんな空気は、初めてだった。
正確に言えば、こんな空気を纏う人、だ。
ふ、と細められた瞳に、底が見えない。
言葉や仕草から伝わるものではなく、ただ彼そのものが、優しかった。
『知らない人なんているの』
『えー？それ褒め言葉？』
『…褒め言葉かは分かんないけど。アイドルが同じ学校通ってて、知らない人なんていないんじゃない？』
ふふん、と鼻を鳴らしたくせに、『そうだと良いけどねぇ』と漏らされた言葉はやけに切なく響いた。
けれど顔を向けるのは躊躇って、黙って歩く。
『Aちゃん』
歩くのが遅いはずの私と、彼の歩幅が同じ事に気付いたのはその時だ。
『深澤くんだって、知ってたじゃん』
『ん？』
『…名前』
『うん、俺はね』
少し弾んだ声色に、あぁ今、笑ったのかななんて足元を見ながら思って、その理由を教えてくれたりはしないところが掴みどころのない彼らしい距離の測り方だと思った。
彼の事なんて何一つ知らないのに、こうして人を惹きずり込む人なのだというのは話して数分の私が身をもって感じてしまっている。
『ねぇ、連絡先教えてよ』
そうか、と思った、今更だけど。
彼はずるい人だ。
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バンビ(プロフ) - hs.さん» こちらこそです。hs.様のコメント、何度も読み返しています。いつも嬉しいコメントありがとうございます。完結遅くなってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。 (5月5日 23時) (
レス) id: 1d28bbaf6b (このIDを非表示/違反報告)
hs.(プロフ) - とても面白くて何度も読み返してます。バンビさんの小説の世界観に魅了されてます。 (5月5日 11時) (レス) id: 37efc71d63 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - ふかたつさん» ふかたつ様、コメントありがとうございます。亀更新で申し訳ないのですが…最後までよろしくお願いします。 (2023年3月29日 12時) (レス) id: bb1036ab13 (このIDを非表示/違反報告)
ふかたつ - 初めてのコメント失礼します🙇🏻♀️バンビさんの小説面白くて一気見してしまいました！このお話も大好きです！これからも更新頑張ってください！ (2023年3月28日 17時) (レス) @page27 id: 1a90f164f5 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - hs.さん» hs.様、コメントありがとうございます。お久しぶりです。だいぶお待たせいたしました…是非、最後までよろしくお願いします。 (2023年1月17日 21時) (レス) id: 8553dd7f55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：バンビ
| 作成日時：2023年1月13日 21時
