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「Aちゃん?」
…呼ばないで。
今は、私の名前を呼ばないで、先輩。
顔を向ける勇気はなく、俯いたまま目を瞑る。
すぐ側を通り過ぎた時に香った紫色の香りは、やっぱり、間違いなく彼のものだった。
「……すみません、私、帰ります」
震える手でカバンを掴み、痛む頭とドクドクと波打つ心臓を無理やり押さえ付けて席を立つ。
「待ってAちゃん」
出口へ向かおうとすれば、後ろからパシッと腕を掴まれた。
「送ってくよ」
ゆっくりと振り返って、顔を上げる。
顔を向ける勇気なんてないと思っていながら、こんなに心を乱されておきながら、それでも彼の姿を一目でも目にしたいという自分の本音に、抗う事はどうしたって出来なかった。
「……大丈夫です、すみません帰ります」
バチり、目が合ったのはほんの一瞬。
本当に交わったのかさえ疑うくらいに、すぐに逸らされてしまった視線はどこへやられたのか。
そんな事なんてどうでも良くなるほど、まるで他人を見るような彼の視線に、暴れていた心臓がそのまま深く抉られたような感覚がした。
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バンビ(プロフ) - hs.さん» こちらこそです。hs.様のコメント、何度も読み返しています。いつも嬉しいコメントありがとうございます。完結遅くなってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。 (5月5日 23時) (レス) id: 1d28bbaf6b (このIDを非表示/違反報告)
hs.(プロフ) - とても面白くて何度も読み返してます。バンビさんの小説の世界観に魅了されてます。 (5月5日 11時) (レス) id: 37efc71d63 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - ふかたつさん» ふかたつ様、コメントありがとうございます。亀更新で申し訳ないのですが…最後までよろしくお願いします。 (2023年3月29日 12時) (レス) id: bb1036ab13 (このIDを非表示/違反報告)
ふかたつ - 初めてのコメント失礼します🙇🏻♀️バンビさんの小説面白くて一気見してしまいました!このお話も大好きです!これからも更新頑張ってください! (2023年3月28日 17時) (レス) @page27 id: 1a90f164f5 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - hs.さん» hs.様、コメントありがとうございます。お久しぶりです。だいぶお待たせいたしました…是非、最後までよろしくお願いします。 (2023年1月17日 21時) (レス) id: 8553dd7f55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バンビ | 作成日時:2023年1月13日 21時