スティンガー II

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「やっほAちゃん」










ゆるゆると手を振る深澤先輩に頭を下げて、辺りを見回す。









今日はいないんですかと聞く前に、寝そべっていた翔太先輩が口を開いた。











「あいつなら来ねーよ。今日はたぶん」











私が分かりやすいのもあるんだろうけど、先輩達は人の事をよく見ている人達だからなんで分かるのか、なんて今は何も不思議ではない。









「派手にやられてたからなぁ」











そんな事よりも何か考えるような先輩達の表情を見て、ザワザワと胸が荒れていく感覚がする。










「…けんか、ですか」











私の曇った顔に気付いたのか「だーいじょうぶ。いつものことだから」と深澤先輩が明るく言っても、私はそんな風に落ち着いてはいられないのだ。









彼のことになると、自分ではどうしようもないくらい必死になってしまう。










先輩達も心配しているのは分かるけど、このザワザワとした感覚を無視する事なんて、私には出来ない。










「…私、行ってきます」











「行くってどこに」











「照のとこ」











「今はほっときゃいーよ」











…だって、あの日あのまま、彼を掴まなかった事を今でもすごく後悔してる。










彼の為になれるなら、私はなんだってしたい。











「…わたし、もう後悔したくないです」











それに今はもう、彼に突き放されて傷付く未来を想像しても、怖くはない。










私には、守ってくれるものがあるから。










私は、彼が信じてくれる私を信じたいし、私が信じたいものを信じ続けていたい。











「よし。行ってこい」











身体を起こした翔太先輩が言った。










目が合えば頷いて背中を押してくれるから、私も頷き返して来たばかりの道をもう一度駆け出した。

















「あーらら。恋は盲目だねぇ」









「だな」









「…なんか、逞しくなったよね」









「親目線かよ」











「とかいって、翔太もちょっとグッと来てんじゃない？」











「…うるせ」
















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