Cheese PLANET (ページ2)

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教室にいた全員の視線が入り口へ向く。
しん、と静まり返った教室に、ドアを開けた人物の足音だけが響いた。

その足音は私達のいる窓側の教室の隅に真っ直ぐに向かってくる。

そして、私の目の前でぴたっと止まった。

その人物は、片方の手で服の裾をぎゅ、と掴んで下を向いていた。
空いた手は強く握られ、震えている。

「リエル君…」

女子の一人が呟いた。

彼はゆっくり顔を上げ、きっ、と私に鋭い視線を向ける。
私は足が震え始めた。私でありませんように、この期に及んで私はそんなことを考え始めた。

私がぎゅっと目をつぶり、耳を塞ごうとした瞬間、一番聞きたくなかった言葉が耳に飛び込んできた。

「僕と、付き合って、ください！」

あぁ、なんということか。
今日は厄日だ。

これを言うのに、彼がどれほど思い悩み、辛苦を耐えたことか。

彼の頭を埋め尽くし、そして放たれた言葉は曲がることなく私にぶつけられた。
教室内にいた生徒が目を見張り、そして輝かせ私を見つめた。

きっと、今の彼には私と彼しか存在しない世界が見えているのだろう。
狂気じみた、キラキラした世界が彼には見えているのだろう。
彼の青い瞳に写し出された私は、戸惑いを隠せない表情で私自身を見ている。

「…う……」

うまく言葉が出ない。否、出せない。

今口を開いたら、私の中に募っていた嫌悪感とともに胃の中にあった何もかもがすべて出てきてしまう。
話しかけられるだけでも辛いというのに。

心臓が脈打つ者に好意を寄せられるなんて、気持ち悪くて死んでしまいそうだ。

「ごめん、なさい…」

やっとのことで口から出た言葉に、教室中がざわめく。
騒ぎを聞きつけた他の生徒が教室前に集まる中、彼はぐっと唇を噛んだまま駆け出して行った。
野次馬を押しのけ、教室から出ていった彼を次々と女子が追いかけていく。

呆然としているクラスメイトを他所に、私は自分の席についた。

まさかこんな事になるなんて。今までに感じたことの無い強い吐き気に流されそうになり、慌てて口を抑える。
前を見ていられない。

目尻から涙が浮かんだ。
もうだめだ、耐えられない。呼吸器に異物が詰まったような感覚に襲われ、本当に泣きそうになった。

「大変だったね」

頭上から人の声がするまでは。