TA-8 ページ46
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それまで安堵の笑みを浮かべていた天馬が、決心した表情で口を開いた。
「人の寿命は変えられない。好葉、俺についてきて」
真実は時に、あまりにも無情だ。
森村さんは、必死になって首を横に振った。
「うちはどうなってもいいです。九坂くんを助けてください！」
「違う！ 悪いのは俺だ！ 好葉には手を出すな！」
まくし立てる二人に、胸が締めつけられた。
頭ではわかっている。この世には、どうしようもないことがあるということを。二人が一緒にいられる方法なんて、どこにも――
――悪魔は何でも――大抵の願いは叶えてくれるよ。
「契約……」
具体的な案があったわけではない。無意識のうちに呟いたそれは、大通りの喧騒の中ではかき消されてしまうような、小さな声だった。
しかし、天使も悪魔も、人間より遥かに耳がいい。九坂が弾かれたように立ち上がり契約書を取り出したが、その表情には迷いがあった。
森村さんが、彼の服の裾をくいと引っぱった。
「九坂くんのためにできることがあるなら、教えて」
「好葉……」
九坂は、地面に膝をつき、森村さんに契約書を差し出した。
「俺と、契約してくれるか？」
「九坂、お前、まさか――」
声を上げたのは剣城だった。
「――森村を悪魔にするつもりか！」
何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
天馬が「そんなのダメだよ！」と尖った声で言う。
「悪魔の仕事は、好葉には耐えられない。人を騙して、陥れて、地獄に連れていくんだよ！？」
天馬の訴えに、森村さんは怯んだ。しかし、天馬と九坂の顔を交互に見ると――力強く頷いた。
「うち、九坂くんと一緒にいたい」
返事を聞いた九坂は一瞬泣きそうな顔をして、それから笑顔を浮かべた。
森村さんの手に、九坂の手が重ねられる。血で赤くなった指先が契約書の上を滑った。――契約完了だ。次の瞬間、森村さんが呻き声を上げて、地面にうずくまった。
数分後――実際にはもっと短かったかもしれない――森村さんはゆらりと立ち上がった。きらびやかなイルミネーションがその姿を照らす。彼女の影に目をやって、私はあっと声を上げた。人間にはないものが生えている。あれは間違いない――翼だ。
人間が――森村さんが、悪魔になったのだ。
剣城は、寄り添い合う九坂と森村さんに手をかざした。
「二人で
ひとつ瞬きをすれば、二人はいなくなっていた。
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
