WH-5 ページ38
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「おはよう、A！」
天馬が、ソファからぴょんと立ち上がった。
キッチンでは、剣城が朝ご飯の支度をしている。パンの焼ける匂いがした。
「なんで……？」
二人は仕事のはずでは――天馬は戸惑う私の手を引き、ソファに座らせた。自身も隣に腰を下ろす。
「ちょっと時間が空いたから。
――それより、サンタクロースが来てくれたんだね！」
満面の笑みの天馬は、私の膝にあるプレゼントに目を向けた。赤い包装紙は、明るいところで見ると雪の結晶の模様があるのがわかった。
天馬の視線に急かされるように、リボンをほどく。包装紙をそうっと剥がすと、真っ白な箱が姿を現した。蓋の中央には小さな黒い文字でロゴのようなものが書かれている。
箱をテーブルに置いて蓋を開けると、アイボリーの革が光った。入っていたのは、Ａ４サイズのトートバッグだ。シンプルなデザインで、持ち手がしっかりしている。職場に持っていくのにちょうどいいだろう。
「……どう？」
私を見上げる天馬の目が、期待と、ほんの少しの不安が入り交じって揺れていた。キッチンにいる剣城も、こちらに注目している。
二人の表情がいつかの母に似ていて、私は慌てて奥歯を噛んだ。
「すごく嬉しい！」
「やった！ ――じゃなくて……よかったね！」
二人は安堵の笑みを浮かべて、それを見た私も何だかほっとした。
私が職場で使っているバッグは、二人に出会った日に持ち手がちぎれていた。天馬に直してもらい昨日まで使い続けていたのだが、なかなか年季が入っていたため、そろそろ新調しようと思っていたところだ。
「買い換えようと思ってたんだけど、タイミング無くて。明日から持っていくよ。ありがとう」
「うん！ ……あ、いいや、お礼なら俺たちじゃなくて、サンタクロースに言わないと！」
「そうだね」
慌てて言い直す天馬が微笑ましくて、くすりと笑った。
「天馬、そろそろ」
「うん」
テーブルに、トーストとサラダ、スクランブルエッグがのったプレートが置かれる。次いで、温かいココアが隣に添えられた。
「じゃあ、俺たちは仕事に戻るね」
「うん、いってらっしゃい」
手を振る。瞬きのあいだに二人は消えていた。
二人のためにケーキを買いにいこう。今日食べるのは難しいかもしれないが、冷蔵庫に入れておけば明日まではもってくれるはずだ。売り切れていたら自分で作ってもいい。今日は幸い、何の予定も入っていないから。
．
end.
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
