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カーテンを開ければ、建物の影から白い光が溢れ始めていた。
徹夜になったが不思議と眠気はなく、清々しい気分だった。
ソファでうとうとしていた天馬が、突然ハッと身を起こす。
「もうすぐ……神童さんが来る」
怯えと寂しさの混ざった声で、天馬は呟いた。
剣城も天使の気配を察しているのか、名残惜しそうにゆったりと瞬きをする。悪魔の瞳が、朝日を受けて光っていた。
「天使と鉢合わせたら面倒だ。俺はここを離れる」
「わかった」
そう話す二人を見ながら、どんな言葉をかけようか迷っていた。「元気でね」？ 「今までありがとう」？ そんなの、今生の別れみたいだ。
――いいや、実際に今生の別れなのだ。
鼻の奥がつんと痛くなって、咄嗟に奥歯を噛む。
天馬はそんな私をなだめるように、両手をとった。
「善い心を忘れないでね。俺たちはずっと、Aのこと見守ってるから」
「うん」
「えっと……お世話になりました」
天使らしからぬ言葉遣いに、「どこで覚えてきたの」と笑うと、天馬はほっとしたように目を細めた。
「ほら、剣城も」
「迷惑をかけた」
「ううん、いいよ。……二人とも、一緒にいてくれてありがとう」
最後に二人の姿を目に焼き付けておきたかった。たとえ記憶を失っても、二度と思い出せなくても、三人で過ごした時間が楽しかったことに変わりはない。
「……抱きしめていい？」
たずねると、天馬は満面の笑みで両腕を広げた。勢いよく飛びこむと、天馬が少年のような笑い声をあげる。
天馬の肩越しに剣城を見上げると、彼は仕方ないな、という表情で私と天馬をまとめて抱きしめた。
「A」
「ん？」
耳元で天馬の声がする。何かを噛み締めるような、こらえるような声だった。
「さよならするのがこんなに悲しいことだって、教えてくれてありがとう」
お互いの身体に回していた腕が緩む。
身体が離れる間際、剣城の手が私の頬を優しく拭った。
瞬きのうちに、彼らはいなくなっていた。
この家は、私一人では広すぎるような気がした。
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
