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いつもなら、とっくにベッドに入っている時間だ。しかし、今日ほど眠るのがもったいない夜は、今までなかった。
三人で横並びにソファに座るのも久しぶりだ。別れが近づいている事実が、部屋を感傷で満たしていく。左隣に座る天馬は寂しいのか、私の肩にもたれかかっていた。
「あの……」
呟くと、天馬がくりっとした目で私を見上げた。じっくり見てみると、天使の無垢さを集めてできたような容姿だな、と思う。白竜や神童も清廉な感じはするが、無垢さより厳格さが際立つ。
「私の記憶を消さないように、悪魔と契約するっていうのは……」
「それは……！」
勢いよく身体を起こした天馬は、口を「だ」の形に開いたまま固まった。彼は少し考える素振りを見せたあと、しおしおとソファに逆戻りする。
「……ダメだけど、ダメって言えない。だって、それしか方法がないから。人間と悪魔が契約することを止めないなんて、変だよね。俺、堕天しかけてるのかな……」
弱々しく言う天馬に、胸が締め付けられる。が、堕天の基準など私にはわからないため、とりあえず彼の手を握って宥めるくらいしかできなかった。
剣城に視線で助けを求めれば、困ったように眉間に皺を寄せる。
「……堕天する機会なら、これまでにいくらでもあっただろ」
「今度はわからないだろ？ 百回目までは大丈夫でも、百一回目で堕天するかも」
「今してないんだから心配いらない」
「……うん」
天馬はやっと納得した様子で、表情を和らげた。そして、縋るような視線を私に向ける。
「……本気で契約するつもりなら、剣城としてね」
「それはもちろん」
「勝手に話を進めるな」
呆れた様子の剣城を見て、天馬と一緒にくすりと笑った。
私がどうしてもと言ったら、剣城はきっと断ることができない。それは彼が悪魔だからであるし、悪魔らしくないからでもある。
だから、契約はしない。
朝が来るまで、あと三時間といったところだ。私はタブレットを取り出し、テーブルに置いた。
「せっかくだし何か観ようよ。天馬、観たいのある？」
「Aが好きなのにしよう！ 剣城もそれでいいでしょ？」
「ああ」
天馬に急かされるままに、色とりどりのサムネイルが並ぶ画面をスクロールする。
「じゃあ、これにしよう」
ヒツジの抱き枕をかかえ、ミルクティーの入ったタンブラーを持つ。
三人だけの映画館の、最後の上映が始まった。
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
