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「剣城に会わないとね。今のうちに聞いておきたいこともあるし」
そう言うと、先程まで泣いていた天馬がパッと顔を輝かせた。
「どうしたの？」
「嬉しいんだ。あのままお別れなんて悲しいと思ってたから」
ああ、と溜め息混じりの声が出た。
私は母のことばかりで天馬たちを気遣う余裕がなかったが、天馬は天馬で私と剣城の板挟みになって苦しんでいたのだ。
申し訳ない気持ちで下唇を噛んでいたが、天馬がそわそわした様子で私を見つめていたので、さっさと剣城を呼ぶことにした。
「――剣城」
ここまできて未だ抱え続ける気まずさを、隠しておきたかった。だから、彼を呼ぶ声には感情を乗せないよう意識したが、それがかえってぎこちなく聞こえてしまう。
瞬きをすれば、目の前に人影が現れた。
「……え？」
間抜けな声が出てしまった。
現れたのは、確かに剣城だった。だが、私が知っている剣城と、決定的に違うところがある。
背中まで届くポニーテールに、薄くなった肩。曲線的な腰のラインが、スキニーパンツによってあらわになっている。
どこからどう見ても、女の子だ。
「……ど、どうしたの……その姿」
剣城は、どうして今呼んだんだと文句の一つでも言いたげな顔をした。その顔立ちも剣城の面影があるものの、明らかに女性だ。
「……地獄に連れ戻されそうになったんだ」
ご丁寧に声まで女性のそれに変わっている。
それを聞いた天馬は「ああ！」と納得したような声を上げた。
「剣城が女性の姿になってるなんて、みんな考えないからね。隠れるにはもってこいだよ」
「ああ、そういうこと……」
嫌だと言っていた女性の姿になってまで帰るのを拒んでいたのだと思うとこみ上げてくるものがあるが、それよりも彼の珍しい姿に呆然としてしまった。
黒いタイトなアウターのせいだろうか、「女スパイ」という言葉が頭から離れない。
「……一旦、いつもの姿に戻ったら？」
「……ああ」
瞬きをすると、剣城は私のよく知る姿に戻った。
ほっとしたのもつかの間、朝には神童が天馬を迎えにきてしまうことを思い出して焦る。私たちに残された時間は、最低でも約六時間といったところだろうか。
「聞きたいことがあるの」
剣城は、そう言われるのがわかっていたかのような表情で頷いた。
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
