4-9 ページ10
「別に話したくなければ――」
「いえ、付き合わせてますし」
そうは言ったものの、やはり言いづらいのか駒井さんはカフェモカをぐっと飲んだ。甘い飲み物を飲んでいるとは思えないほど苦い顔をしている。
「中学の授業で、調べたことを発表しないといけなくて」
「うん」
「僕、そのとき声変わりの途中だったんですよ。それで……発表中に、声が裏返ってしまって」
ああ、と思わず声がもれた。
何かといきすぎる時期である。クラス全員の前で発表するだけでよくないからかわれ方をする可能性があるのに、そこで何かあったとなれば――。
「……すみません。大したことない理由で」
「いやいや、大したことだよ。苦手になっても仕方ないって」
そう返すと、駒井さんは少し安心した様子で眉を下げた。
近頃憂鬱そうにしていたのは、人前で話すのが苦手だったからか。理由がわかったことで、私も多少気持ちが落ち着いた。
「人の視線が気になる？」
「はい。注目されるのが……」
今まで苦労してきただろうな、と想像するだけでこちらまで気が滅入る。
今回のプレゼンは、何せ一番大きい会議室でやるのだ。いわゆる偉い人も数名見にくるのである。私も初めて参加したときは、恐怖で脚が震えていた。演台で腰から下が隠れていたのが幸いだった。
少し話したところで、駒井さんが「ちょっとすみません」と自分のバッグを漁り、目薬を取り出した。
「……駒井さんって、今コンタクト？」
「はい」
「視力どれくらい？」
「かなり悪いです。裸眼だとぼやけて何も見えないですね。特に遠くのものは」
それを聞き、私にはひとつのアイデアが浮かんだ。
上手くいくかどうかはわからないし、根本的な解決ではない。しかし、今からできる対策が限られている以上、できることはやっておいたほうがいいだろう。
そう思い、私は口を開いた。
「ちょっと、作戦を思いついたんだけど――」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
