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episode5 Life gose on
自分がいつベッドに入ったのか、どうやって眠ったのかわからなかった。
休日にしては早く目が覚めて、いつもなら二度寝をするところだったが、その日は妙に目が冴えていた。
部屋は静かだった。
最初は今日が休みで良かったと思ったが、すぐにそれは間違いだと気付いた。
シャワーを浴びていても、携帯をいじっていても、ふとした瞬間に母のことを考えてしまうのだ。仕事でもしていれば、思考を母から逸らすことができたかもしれない。
気を紛らわせようと動画配信サービスのアプリを開いても、どの作品も魅力を感じない。仕方なく観たことがある作品を再生しても、以前のように面白いと感じることはなかった。見知った映像が流れているだけだ。
何もかもへの興味が失われているような感覚だった。
だらだらと過ごしていると、昼頃に天馬が姿を現した。
「A」
彼は恐る恐るといった様子で私を呼んだ。私はどういう顔をしていいのかわからず、感情が声に乗らないように「うん」と答えた。
天馬は私が返事をしたことで少し安心したようだった。
「あの、冷蔵庫に作り置きがあるって、剣城が……」
そう言われ、その日初めて冷蔵庫を開けると、中には昨日のケーキの残りと、作った覚えのない豚肉と大根の煮物があった。いちょう切りにされた大根は、出汁がたっぷりと染みている。けれど――。
「ごめん、お腹空いてない」
天馬の頬が引きつったが、見なかったふりをした。
「天馬、食べていいよ。温めようか」
レンジを指す。天馬は今にも泣き出しそうに、くしゃりと顔を歪めた。今度は見なかったふりができなかった。
「A」
天馬が足早に近づいてきて、私の手をとった。
「剣城も隠してたわけじゃないんだ。言い出せなくて――」
「わかってるよ」
最後まで聞いていられなかった。天馬が言葉を紡ぐたびに、胸の内が軋んで痛むのだ。
「わかってるけど、受け入れられない」
母が地獄の最下層で、今も苦しんでいるなんて。
天馬の手をそっと外した。
震える声で、縋るように彼が私の名前を呼ぶ。天使が人間に縋るなんて、これでは立場が逆だ。
「……剣城に会いたくない？」
正直に答えたら、きっと天馬を悲しませる。けれど、相手を傷つけないための嘘がつけるのは、自分に余裕があるときだけだ。
小さく、しかし確かに頷くと、天使は目を伏せ、そして消えた。
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作者名：はるま | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年10月13日 0時
