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細い路地に入ると、剣城は私の腕をいっそう強く握り、「目を閉じてろ」と言った。言われるがままに目を閉じると、エスカレーターが降下するときのような、内臓が上がってくる感覚に襲われ、少し呻いた。
「もう開けていいぞ」
目を開けると、私の家の玄関だった。今朝家を出たときと変わらず、土間の端に底が外れたパンプスが転がっている。――瞬間移動である。
今朝と唯一異なるのは、部屋の奥に白いセーターに身を包んだ天馬が立っていることだ。目が合うと、彼はにこりと微笑む。
「A、無事に戻れたんだね。良かった」
「ど、どうも……？
……あの、二人はどうしてここに？」
たずねると、天馬と剣城は二人揃って一度目線を逸らした。天馬がおずおずと口を開く。
「俺たち、追放されちゃったんだ」
「追放？」
「うん。と言っても、永久追放じゃないよ。俺たちはミスを犯したから、罰が下されたんだ。ノルマをこなすまで、帰ってきちゃいけません、ってね」
「そんなに軽々しいものじゃない。身一つで追放されたんだぞ。どうやってノルマをこなすつもりだ」
剣城が苛立った声で言った。それを聞いた天馬が、あからさまにしゅんとした表情を浮かべる。くるんとした髪の毛も相まって、飼い主に怒られた子犬みたいだ。
「お金とか家は……？」
「……本来なら支給されるんだが」
深く刻まれた眉間のしわが、今回は罰だから、と言外に示していた。一文無しで生きていくには、人間界は過酷だろう。
「でね、A。お願いがあるんだ」
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
