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一店舗目も二店舗目もはずれで、私はグロッキー状態であったし、流石に剣城も焦りを露わにしていた。やってきた三店舗目のドアを開けようとして、剣城はさっと後ろを振り返った。
「どうしたの？」
「ここじゃない。向こうだ」
急いで向かった先は、『取り壊し予定』と張り紙が貼られた古いビルだった。
剣城は入口からは入らず、今にも崩れてしまいそうな非常階段に向かった。それを追いかけ、一段目に足を乗せようとしたそのとき、階段の陰に何かが落ちているのを見つけた。
「これ……」
それは、彩花のカバンに忍ばせた十字架だった。しかし、それは焼けこげたように黒く変色しており、かろうじて十字の形を保っているだけだ。
「行くぞ」
「う、うん」
物凄い速さで階段を上り始めた剣城を慌てて追いかける。踏みしめるたびに、非常階段はギイ、と気味の悪い音を立てた。
「つ、剣城……」
ぜえはあとよくない呼吸音が口からこぼれる。家から駅までちょっと走るぐらいならなんてことないパンプスだが、階段は無理がある。体力的にも限界が近い。
剣城は振り返り、私に向かって心配そうな表情を浮かべていたが、今は彩花を優先すべきだ。息も絶え絶えになりながら「先に行って」と言うと、彼は一瞬迷ったが、再び階段を上り始めた。
やっとの思いで最上階まで辿り着くと、剣城が右手を抑えながらドアを睨みつけていた。
「どうしたの？」
「入れない。恐らく悪魔除けだ」
よく見ると、剣城の右手には火傷したような痕があった。これが恐らく、悪魔除けによる怪我なのだろう。
「ちょっと離れてて」
「おい、何する気だ」
戸惑う剣城を端に寄らせ、私はおそるおそるドアノブに手をかけた。何もおかしなところはない、普通のドアノブだ。
「私なら開けられる」
「開けたらすぐ下がれ。準備はいいか」
「うん」
「いくぞ。三、二、一」
ドアを開け、剣城が部屋の中へ滑り込む。次の瞬間には、剣城に突き飛ばされていた。
「いッ……！」
柵に右肩をぶつけ、じんじんとした痛みが広がる。私はうずくまったまま顔だけを上げ、息を呑んだ。
剣城の頬に、細い傷が刻まれている。ハッとして階段の柱に目をやれば、黒いナイフが突き刺さっていた。もし剣城に突き飛ばされなければ、私の頭を貫いていただろう。一気に血の気が下がる。
「ねえ、今取り込み中なんだから邪魔しないでよ」
部屋の中から聞こえてきたのは、女性の声だった。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
