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失恋しても仕事は仕事。生きるために働かねばならないのである。
休日のあいだ、彩花はまだ沈んだ様子だったが、月曜の朝には何とかベッドから這い出て職場に向かっていった。
心配だが、私も仕事である。彩花と光橋さんが職場で気まずくならないよう――それも難しいだろうけど――祈りながら、私は自分の仕事にとりかかった。
彩花から連絡があったのは、定時を回った頃だ。
今日の仕事の仕上げにとりかかる前の小休憩で、自販機のそばのベンチに座っているときだった。
「今日は沖内さんと食べて帰るね」
シンプルなメッセージの中、“沖内さん”という文字だけが、やけに目に付いた。
白竜の登場でうやむやになっていたが、あのとき彩花の前に沖内さんが現れたのは本当に偶然だったのか、わからずじまいである。
咄嗟に天馬か剣城を呼ぼうとしたが、ここが職場で、周りに数人の社員がいることを思い出し、慌てて口を閉じた。こんな場所に瞬間移動させるわけにはいかない。
残りの仕事は明日の自分に任せることにして、私はそそくさと退社した。
会社を出たところで剣城と鉢合わせた。
「沖内さん、悪魔だと思う？」
「さあな。だが、悪魔が人間に化けるのはよくある話だ」
彩花のもとへ飛んでいこうにも、場所がわからなくてはどうすることもできない。私は急いで「了解！ どこで食べてくるの？」と何でもない風を装ってメッセージを送った。
「沖内さんおすすめのイタリアンのお店だよ」
遅い時間であるからそこまで遠くには行かないにしても、ディナーを提供しているイタリアンの店はいくつかある。そのうち、彩花の会社から行きやすいのは三店舗だ。
「ひとつひとつ回っていくしかないな」
「彩花、大丈夫かな……」
「わからない。悪魔が手を出さないことを祈れ」
不安で冷える私の手を、剣城が掴んだ。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
