【イナGO】迷える子羊を愛せよ上【天使と悪魔パロ】 (ページ21)

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　何もできないまま、その日は来た。

　写真を拾った日以降、槙田さんとは一度も心美ちゃんの話をしていない。そもそも、心美ちゃんが入院しているということを槙田さんから聞いたわけではないので、私から心美ちゃんの話をするわけにもいかなかった。

　一度だけ、思い切って心美ちゃんの命日を天馬に聞いてみたが、「全ての人間の命日が機密事項だから、その日になるまでは教えられない」と断られてしまった。知ったところで、どうこうできる問題でもない。

　定時まで残りわずかというところで、槙田さんの携帯が鳴った。
　槙田さんは弾かれたように席を立ち、オフィスから出るより先に電話に出た。
　その後ろ姿を見ながら、私の心臓は早鐘を打っていた。空調が効いているというのに、汗が止まらない。
　数秒のうちに戻ってきた彼女は、慌てた様子で上司と話し、カバンを引っ掴み走ってオフィスを出ていった。

　気が付いたら、席を立っていた。
　追いかけたところで、何かできるわけじゃない。しかし、槙田さんのことは放っておけない。

「すみません。ちょっと体調が優れないので、早退させてください」

　これが、入社して初めての早退だった。

　建物を出ると、すでに槙田さんを乗せたタクシーが走り去るところだった。タクシーを探す時間すら惜しく、私は駅に向かって走った。天馬が直してくれたパンプスが、かつかつとうるさく鳴った。