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「寿命ってどうしても伸ばせないの？」
お湯を沸かしながら、私は天馬にたずねた。
瞬間移動によって二度も吐いたせいで、部屋に帰ってしばらくするとお腹が空いてきた。一から準備をしていると遅くなってしまうため、今日のディナーはカップラーメンだ。
「基本的にはできない」
「『基本的には』って……方法はあるってこと？」
「あるけど……うーん」
天馬は珍しく、眉間に皺を寄せた。それから深刻そうな声色で、「絶対しないって約束できる？」と私の耳元で言った。
頷くと、天馬は持っていたお椀を置いた。
「俺が知ってる唯一の方法は……悪魔と契約すること」
「悪魔と契約！？」
「絶対やっちゃダメだからね！？」
「わ、わかってるって」
小説や映画でしか聞いたことの無い単語が飛び出し、思ったより大きい声が出てしまった。
それに共鳴するかのように、ヤカンが甲高い笛を鳴らす。慌てて火を止め、カップにお湯を注いだ。携帯電話のタイマーを五分にセットする。
「悪魔と契約したら、寿命を伸ばせるの？」
「うん。……でも、死後、契約者の魂は地獄の最下層に連れて行かれる。地獄の中で一番つらく、苦しい場所に」
部屋の温度が下がった気がして、私は身震いした。乾いた唇を舐める。
「その代わり、悪魔は何でも――大抵の願いは叶えてくれるよ」
「本当に？ 何でも？」
「うん。大金持ちになりたいとか、好きな人と結婚したいとか、死んだ人を甦らせたいとか……。A、絶対、ぜーったいダメだからね！？」
「わかったって！」
ピピピ、と鳴り始めたタイマーを止め、カップラーメンの蓋を開ける。
「ほら、ご飯にしようよ。天馬、食べたいんだったらお椀とお箸持ってきて」
久しぶりに食べたカップラーメンは、まったく味がしなかった。
私は地獄の最下層に行くほどの勇気もないし、ましてや槙田さんや心美ちゃんにこんな話できるわけがない。つまり――私にできることは何も無い。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
