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最初に入ってきた女性――恐らく患者の娘――が、私たちを見て少し驚いた顔をする。ややぎこちなく「こんにちは」と挨拶すると、女性はすぐに「こんにちは」と返した。何とか看護師に見えているらしく、私はこっそり胸を撫で下ろした。
彼女に続いて、ぞろぞろと男性の家族が部屋に入ってきた。家族の時間を邪魔してはいけないと思い、「何かあれば呼んでください」と言って、私と天馬は部屋を出た。
「A、少し部屋からは離れていよう」
「どうして？」
「ちょっと慌ただしくなるから」
患者や本物の看護師に呼び止められたらまずいということで、私と天馬は人気のない廊下に行って服装を元に戻した。
長椅子に座って待っていると、廊下を数人の看護師がバタバタと走っていった。向かった先には、男性の病室がある。
「行こう」
天馬が立ち上がって歩き出し、私はそのあとを追った。
開いたままのドアの向こうから、女性の声が聞こえてくる。
「お父さん、行かないで。お父さん……」
私はぎくりとして立ち止まった。それに気付いた天馬が振り返り、「どうしたの？」と首をかしげる。
「ううん、何でもない」と首を横に振り、天馬の隣に並んだ。
しばらく家族や医師が男性に話しかけていたが、小刻みに鳴っていた細く高い電子音が休符なしに響くようになると、次第に声の勢いが無くなっていった。
「十時五十一分、ご臨終です」
医師がそう告げると、先ほど挨拶を交わした女性が悲鳴のような泣き声を上げた。
見ず知らずの人とは言え、人の死に立ち会ってしまった。心臓がどくどくと脈打っていて落ち着かない。院内は空調が聞いているにもかかわらず、こめかみに汗が流れていく。
すると、天馬の前に一人の男性が現れた――今しがた亡くなった彼だ。しかし、その身体は半透明で、向こう側の景色が透けている。
思わず声を上げそうになった私の口に、天馬が人差し指を当てて制した。
「今は魂だけの状態なんだ。本当ならAには見えないんだけど、今日は特別」
天馬は「送ってくるね」と言い残し、男性とともに消えてしまった。一人取り残された私は、ひとまずその場から離れることにした。
すすり泣く声が、ずっと廊下に響いていた。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
