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その日も、槙田さんは定時で席を立った。彼女がカバンを持ち上げた瞬間に、一枚の紙がはらりと床に落ちる。しかし、彼女はそれに気が付いていない様子で、そのままオフィスを出ていってしまった。
急いでそれを拾い、槙田さんを追いかける。彼女はエレベーターを待っていた。
「槙田さん、これ――」
そう言って彼女に差し出そうとしたとき、私は初めてその紙の裏側――いいや、こちらが表か――を見て、息を呑んだ。
それは、槙田さんと、小学生くらいの女の子が一緒に映っている写真だった。女の子は活発そうな笑顔をこちらに向けている。
驚いたのは、その女の子に見覚えがあったからだ。
「あ、ごめんね。ありがとう！」
槙田さんの声で、ハッと我に帰った。
「娘さんの写真ですか？」
「うん。去年、遊園地に行ったときの写真」
「楽しそうですね。――あ、すみません、引き止めてしまって」
「ううん、写真ありがとうね。お疲れ」
「お疲れ様です」
槙田さんがエレベーターに乗ったあとで、私は鼓動の早くなった心臓を落ち着かせようと、胸を押さえた。
私の勘違いであると思いたいけれど、他人の空似にしたって似すぎている。
あの写真に映っていた女の子――ここみちゃんは、この前天馬と行った病院で見かけた子だ。窓際のベッドに横たわって、窓の外を眺めていた女の子。
これなら、最近槙田さんが定時で帰っていくのにも合点がいく。そうしないと面会時間に間に合わないからだ。
呆然と立ち尽くす私の頭の中で、天馬のあっけらかんとした声が響いた。
――あの子は天国に行けるから。
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://twitter.com/April_hrm
作成日時：2022年9月11日 15時
