仇討ち(Tatsuya.F, Ryohei.A, Ryota.M)

深碧（Ryohei.A）１ ページ9

悲劇の知らせの翌晩。

寝所に入ってきたAが
一向に布団に入る気配がないことに違和感を覚え
阿部は蝋燭の薄明りの中、目を開けた。

「A？」

Aは布団の上に座り、布団に入った阿部を見下ろしていた。

「私に話すべきことがあるのでは？
　あ、先に言っておきますけど、私、離縁等致しませんから。」
「…昼間の、深澤たちとの話、聞いてたの。」
「いいえ。そんな行儀の悪いこと致しません。
　そのくらいのこと、分かります。」
「全部お見通し、か。」

溜息を吐きながら、阿部も布団から出て
Aに向き合って座り直した。

「当たり前でしょう。何年一緒に居ると？」
「もう何年になるかな。」

幼少の頃より共に居た阿部とAの付き合いは
生きていた年数とほぼ同年だと考えて良いだろう。
夫婦の契りを結んでからだけでも、五年はゆうに超えている。



「でも、ずっと一緒に居るからって
　終わりまで共にする必要はないんだよ。」



蝋燭の炎が揺れて、阿部とAの影が揺れ
阿部の枕元に置かれた刀の鞘が鈍く光を反射した。


「腹立たしい程、私のこと分かってらっしゃらない。」


膝で阿部との距離を詰めたAの瞳の中にも
炎が小さく揺れていた。

「終わりまで共にする必要はない？
　そんなこと、分かっています。
　貴方に関する全てにおいて、必要に迫られてしたことなんて
　これまでも、これからも、何一つありません。
　全て、私が選択して、私が望んでしたこと。
　貴方の妻になったのも、最期まで貴方の妻で居ることも。」
「A…。」

Aは揃えた指を布団の上につき
阿部の目を真正面からしかと見据えた。

「どうぞ、私をお役立てください。
　必ずや、お役に立ってみせます。
　ですからどうか、貴方の進まれるその道、迷われませんよう
　前だけを向いて、お進みください。」

阿部は、Aの冷たい指先を握って目を閉じた。

「ありがとう。」

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