仇討ち(Tatsuya.F, Ryohei.A, Ryota.M)

After story-零れ桜（Ryohei.A）2 ページ33

ねえ、いま、何を考えてるの。

そんな阿部の心を見透かすように
握られた手をAが握り返して
ゆっくり口を開いた。

「見て下さいよ。
　ここ、何もないんです。
　仕えるべき上様も、守るべきお家も
　あなたに貰った物も何もなくて
　私の体と、心一つだけ。」

困ったように笑ったAは
もう片方の手も、阿部の手に重ねた。

「人の最後は、こうなるんですね。
　名誉も家名も誉も何も持って行けないし
　何も残らなくて、私は単に私にだけになって。」
「A…。」
「だから。あなたがちゃんと帰ってきてくれて
　こうして私を見つけてくれて
　今、また一緒に居れることが
　嬉しいと、素直に思えます。」

それ以外は何もないと、Aは言った。
命を懸けた仇討ちが生んだ
恨みも辛みも悲しみも、今はもう無くて
ただ。


「…とんでもないこと、言ってる自覚はある？」
「なくは、ないです。」

握った手を引いて、腕の中にもう一度Aを囲えば
背に腕を回されて、抱きしめ返される。

「俺も、Aにまた会えて嬉しい。」
「はい。」
「待っててくれて、ありがとう。」
「、はい。」

これ以上は、もう要らないのだと思う。
全て全て、もう終わったのだから。

「俺、幸せだ。」
「私も。」

抱き締める腕に、力を込め直す。

「離れたくないな。」
「離れないでいましょうか。」
「ずっと？」
「はい、ずっと。」
「来世も？」
「ふふ、来世も。」

何の重みもない、ただ甘いだけの約束に
おかしくなって、二人して笑い声を上げる。
そんな言葉遊びみたいな睦言も
ただの亮平とAになら、許されるこの時間は
ただ幸せに満ちていた。

「A。」
「はい。」
「また。また、Aの所に絶対に行くから。
　その時は、また俺のこと選んでくれる？」
「ええ。勿論、また、お側に居させてください。」

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