仇討ち(Tatsuya.F, Ryohei.A, Ryota.M)

After story-零れ桜（Tatsuya.F）４ ページ31

「辰哉？」
「あ、いや、片付け、俺やっとくから。」
「そう？ごめんね、ありがとう。」

お礼を言って、Aがソファから立ち上がっても
いつもなら玄関まで見送ってくれる深澤が立つ気配がない。
鞄を取りながら、Aが首を傾げていると
深澤はそれに気付いたのか、のろのろと腰を上げる。

Aが玄関に向かう間、いつもより幾分遅い歩みで
その後を追う深澤の唇はほんの少しだけ尖っていて
流石のAも、深澤の考えていることを察する。

土間の前まで来ても、何も言い出さない深澤に
Aは小さく笑って、その顔を振り返る。

「このままだと、Aさん、帰っちゃいますけど？」
「…でも、あなた、明日普通に朝から仕事でしょ？」

深澤にしては珍しく、拗ねた顔を隠すこともなく
その声にも、その感情が滲んでいる。

「そうだけど。
　恋人の我が儘を聞くくらいの余裕はあるよ？」

そんな深澤の姿が可愛らしくて
からかうように言えば、深澤は口をへの字にして
それから、両手を軽く上げて、溜息を吐いた。

「はいはい、負けました。降参ですー。」
「ふふ。」

深澤の降参のポーズに
機嫌良さげに笑みを深めたAを
深澤も目を細めて笑んで見遣る。

「それで、余裕のある俺の恋人は
　まだ一緒に居てくれんの？」
「可愛い恋人くんが、ちゃんとお願いしてくれたらね？」

悪戯っ子のように笑うAに
観念しましたとばかりに、深澤はもう一度溜息を吐いて
Aの手を取り、指を絡める。
一歩、深澤は足を進めて距離を詰めると
少し頭を傾け、唇が触れる距離で。






「もうちょっとだけ、一緒に居て？」





そう言って、口付けた。



今度は君に、笑顔だけを。
今度は君と、幸せだけを。


fin.

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