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深碧(Ryohei.A)4 ページ12

早朝。
朱殷の半着に、黒の袴を纏った阿部へ
真っ白な装束を着たAが刀を渡す。


阿部が刀を腰に差した後
Aは阿部の手を取った。

首を傾げる阿部の、血豆や擦り切れの多いその手に
丁寧に、丁寧に、赤い腰紐を巻いていく。

「ふふ、途中で刀を落としてしまっては
 笑い話にもなりませんでしょう。」
「はは、それはそうだ。」

左手が終われば今度は右手に。
丁寧に、丁寧に、巻いていく。

そうして巻き終えた右手を
自分の頬に当ててAは目を閉じた。

「私は、貴方についていくことは出来ませんから。
 せめて、これだけでも。
 最期のその時まで貴方の傍に、居させてください。」
「心強いよ。」

ゆっくりと阿部の手から頬を離すと
Aはゆっくりと微笑んで
その場に三つ指をつき、頭を下げた。

「どうか。
 どうか本懐を遂げて下さいますよう。
 殿のご無念、晴らして下さいませ。」
「…ん。」
「彼の地にて、一足先に、お待ちしております。」

阿部はその目にAの姿を刻むように
暫し見つめた後、外で待つ友の元へ向かった。



「すぐに行くから。待ってて。」



阿部の足音が聞こえなくなっても
暫くの間、Aは外の音に耳を澄ましていた。

魚売りや豆腐売りの声に
道を歩く人の足音や喧騒の中に
阿部の何かを探すように、耳を澄ましていた。


阿部が出立してから幾程時間が経ったか。
Aはゆっくりと頭を上げると
着物の襟を正し、縁側へ向かった。

快晴の空の下、桜がこれでもかというほど
咲き誇っている。

縁側へ茣蓙を敷き、そこへ腰を下ろす。
見上げた桜からは、花弁が舞い散り
これから成されることを祝福しているかに見えた。

Aは、阿部から贈られた深碧の組み紐を
胸に入れ、帯から懐刀を抜くと
目の前の美しい景色に、ゆっくりと微笑んだ。


『すぐに行くから。待ってて。』


阿部の声を思い出す。
阿部の体温を、抱きしめてくれた腕を思い出す。

それだけで、こんなに幸せに満たされていく。

冷たい刀身を喉元に当てて、Aは静かに目を閉じる。


怖いものなど、何もなかった。
目を閉じる瞬間。
舞い散る桜が視界を掠めた。

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設定タグ:深澤辰哉 , 阿部亮平 , 宮舘涼太   
作品ジャンル:タレント
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Y.Harumizu(プロフ) - 蓮花さん» 感想ありがとうございます。仇討ちとても良かったですよね。そうですね、どの夫婦も辛くて幸せですが、舘様夫婦は少し色味を変えたお話にしました。いつか国王の短編も書けたらと思っていますので、その時はよろしくお願いします^ ^ (7月24日 22時) (レス) id: 3d23a8217f (このIDを非表示/違反報告)
蓮花(プロフ) - 一番好きな演目が仇討ちでした。そして先でも後でも一緒に逝けるのは幸…せだなと思いました。でも意志を継ぐって、それはないよ!キツすぎる!って号泣しながら読ませていただきました。他作品を見ると舘様の作品がなくて、ちょっと残念です。宮舘担なので… (7月24日 15時) (レス) id: 185c333094 (このIDを非表示/違反報告)
Y.Harumizu(プロフ) - minaさん» 感想ありがとうございます。もう一度演目を見たいと言っていただけて嬉しいです。あの演目も大好きなので、歌舞伎のテーマの愛が、微力でも私も表現出来てたら嬉しいです。 (2023年5月4日 18時) (レス) id: 4a6ffd3422 (このIDを非表示/違反報告)
Y.Harumizu(プロフ) - マコトさん» 感想ありがとうございます。舘様の選んだ人は、きっとこんな強い人だろうなと思って書いたので、そう言っていただけて嬉しいです。そして私も桃色様担当なので、嬉しいです(笑) (2023年5月4日 18時) (レス) id: 4a6ffd3422 (このIDを非表示/違反報告)
mina(プロフ) - 切なくて儚くて涙が止まりませんでした。このお話を読み終えた今、もう一度仇討ちの演目が見たくなりました。心がまとまりませんがどうかそれぞれのご夫婦が来世で幸せになれます様に、と心から願っております。ありがとうございました。 (2023年5月4日 5時) (レス) id: ff96477080 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Y.Harumizu | 作者ホームページ:http://beautifulvitamin.yukihotaru.com/  
作成日時:2023年5月1日 14時

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