水温 2 ページ10
ぎゅい、と長靴を鳴らし
吐夢は一番手前で
時折口を開閉するだけの底魚に触れるように、
その指先を水槽の壁面に当てて
出来るだけ真上から魚を見下ろす。
前髪が微かに水槽の壁に触れる。
水槽にぼんやりと半透明に、吐夢の姿が映った。
仄暗い青色に吐夢の金髪が融けるように透けるように。
ひんやりと、冷たい。
冷たいものが、吐夢は嫌いではなかった。
いつだって吐夢の周りには、
冷たいものが多かった。
自分と世界を遮る、コインロッカーの扉。
生みの親の残した、四葉のクローバー。
それを入れた、ペンダント。
自宅にある愛おしい水槽。
日常的に触れる、命のないパーツと
生を失った日用品。
偽りの愛を誓った人間達を罰するカッターと、
その骸。
初めは温かかったそれらが、温度を失っていくのを
その指先で感じる事も、嫌いではなかった。
冷感は、確かに吐夢を安堵させる。
不意にコートのポケットに突っ込んでいた携帯が震えて、吐夢はゆっくりとその手を水槽から離し
携帯を取り出す。
ロック画面に表示されたのは
輪花からのメッセージの通知で
また吐夢はゆっくりと指を滑らせて、メッセージ画面を開く。
ポケットに入れたままだった携帯は微かに温かかった。
『今度、ここに行きませんか。』
輪花から送られてきたURLを、ぽつと指でタップすると、ブラウザに表示されたのは焼き鳥屋のサイト。
今にも煙の匂いのしそうな、
暑苦しそうな店内の写真は、
一見、輪花のイメージとは程遠かったが
時折輪花が見せる険しい表情や、
少し荒い仕草にはよく似合っているようで、
吐夢は知れずその口角を緩く持ち上げた。
『行きましょう。いつにしますか？』
携帯の画面の光を、
水槽とその中の水がゆらゆらと反射する。
ぽつぽつと、メッセージを打ち込む吐夢の顔は
穏やかだった。
携帯を持つ手とは反対の、
初めて輪花から触れてくれた自分の手の指を
ゆっくりと吐夢は擦り合わせる。
温かくて、柔らかかった。
これまで吐夢が触れてきた、
囲まれてきた、多くのものとは異質の輪花の手。
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Y.Harumizu(プロフ) - マコトさん» 私も初日に観てきました✨実はこういう仄暗い狂気系がとても好きで好きで、友達と何とか吐夢くんが幸せである姿を考えたい！って話してたら書いてました（笑）本当、彼の中の沼は深いです… (2月26日 17時) (
レス) id: 245b47ec32 (このIDを非表示/違反報告)
マコト(プロフ) - Harumizuさんがこのネタを書いてくださるとは！！ 初日に観てきました。桃様の表現者としての実力に圧倒されました。……解っていたけど、本当に深いですよね……彼の中の沼って。 (2月26日 16時) (レス) @page3 id: 777d8311f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Y.Harumizu
| 作者ホームページ：http://beautifulvitamin.yukihotaru.com/
作成日時：2024年2月26日 16時
