Raspberry-Valentine-(Daisuke.S) (ページ1)

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Raspberry-Valentine-1 ページ1

「Aさんに、お願いがあります。」
「はい、何でしょう。」

パジャマの下だけ履いた、少し間抜けにも見える格好でベッドの上に正座する。
Aはまだ少し気怠げに、前髪をかきあげながら
そんな佐久間の前に同じく正座する。

あー、可愛い。

ただ眠そうなそんなAの姿に
未だにそんな事を思ってしまう自分は中々重症だ。

佐久間はにやけそうになる口元を引き締めて
膝の上で拳を握った。

「もうすぐバレンタインですが。」
「はい。」

ごくりと佐久間の喉が鳴る。

きっと言わなくても
Aはチョコレートをくれるに違いない。
…多分。

でもそれだけじゃ足りない。

何故なら、阿部から佐久間は聞いてしまったから。

「Aさんの作るお菓子、美味いんだよね。
　バレンタインとか、みんなでつまめる系の
　チョコ系のお菓子大量に作ってくれたりしてさ。
　論文書いてる時の甘いの、助かったなあ。」

Aにお菓子を作ってもらったことはない。
手料理はいつも大変美味しくいただいているが
お菓子はもらった事がない。

阿部ちゃんだけ食べた事あるの、ずるくない？

「チョコレートが欲しいです。」
「…はい。」
「手作りのチョコレートが欲しいです。」
「………はい？」

怪訝そうな顔をしたAの手を
それぞれの手で握ると、Aが握り返してくれる。

「Aさん、お菓子作れるんでしょ？」
「誰情報、それ。あ、阿部くんか。」
「ゼミ？の人達に配ってたって聞いた。」
「配ってたっていうか、適当に置いてただけよ。」
「でも手作りだったって。」
「お金ないもの、学生時代なんて。」
「美味しかったって。」
「それは良かったけど。」
「阿部ちゃん達は食べた事あるのに、
　俺が食べた事ないの、ずるい。」
「ずるいって…。」

呆れたように苦笑するAに、この想いの天秤が
どちらに傾いているかなんて、明らかで
佐久間はムッと口を尖らせる。

最初からそんなこと分かっていたし
自分が子供っぽい事を言っている自覚は
嫌って程あるけど、それでも納得がいかないから。

「俺も食べたい。」
「うんー…。」
「Aさんの手作り食べたい。」
「うーん…。」

尖らせた唇をAの指が撫でて、Aは困ったように笑う。
それから、その指はそっと佐久間の頬を撫でた。