櫓のお七（Daisuke.S） (ページ4)

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櫓のお七（Daisuke.S）４ページ4

「ごめん、黙らないで、恥ずかしいし
　重いなって、今自分でも思ってるから。」
「重くない。でも、お願いだから
　そういうこと、言わないで。」
「…うん、ごめん。」

なんて言ってみるけど、きっと、逆の立場なら。
自分の何かで彼女の命が助かるとしたら
同じ選択をしないとは、言い切れない。

この矛盾を、お七も感じていただろうか。
その上で、あの鐘を鳴らしたのだろうか。

「かなしい。」

思わず零すと、Aの手が背を撫でてくれる。
佐久間はその体温に目を閉じた。
少し、泣きそうだ。

「あんな、あんな覚悟決めなくても
　一緒に居れたら良かったのに。」
「そうね。」
「あんな形で…。」
「うん。…二人一緒に、生きて、
　幸せになって欲しかったよね。」

言葉になりきらない佐久間の声を
気持ちを拾うように、Aが頷いて
佐久間の頭を撫でる。

その優しい感触に、恐怖が解れる気がした。

受け止めきれないと感じた激情は
自分の中にもある気持ちと同じもので
ただ、運命がそれを悲しい形に
変えさせてしまっただけで。
それは、辛い、怖いものなんかではなくて。

そう、まさに今、Aに自分が感じているような
温かくて、幸せな気持ちであったはずで。

「A、好き。好き。
　…好きだよ。本当好き。」

根元にあるこの気持ちは、お七も自分も
同じものだったはずだ。

「うん。私も好き。」
「うん、ありがと。…ねえ。」
「んー？」
「さっきの、取り消してい？」
「さっき？」
「お七の気持ち、分かんなくていいっていうの。」
「？」

首を傾げるAの髪を撫でて
そのこめかみにキスをした。

「やっぱり、そのくらい俺のこと好きでいて。
　でも、命じゃなくて、さ。」
「うん。」
「Aの人生、俺に懸けてくんない？」
「え？」
「後悔させないように、頑張るから。
　お七みたいに、悲しい覚悟しなくていいように
　幸せにできるように、頑張るから。」

震えるAの瞼にキスをしたら
その目が嬉しそうに笑うから
嬉しくなって、佐久間も笑った。

「そんなの、とっくの昔に懸けてるよ。
　大介のこと、好きになった時から。」

そう言ってしてくれたAのキスが嬉しくて
その言葉が嬉しくて、佐久間は何度もその唇を追いかけた。

この温かい気持ちを、持てることに感謝しよう。

この気持ちが温かいままで居られるように
二人で一緒に頑張っていこう。

ずっとずっと、君と一緒に。

fin.