櫓のお七（Daisuke.S） (ページ2)

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櫓のお七（Daisuke.S）２ページ2

確かめなくても分かるほど、鼓動が早い。
こめかみから汗が伝う感触があった。

「…っ、お、れ？」
「大丈夫？すごくうなされてた。」

Aの指が汗を拭い
佐久間の大きく開いたままの目を
心配そうに覗き込む。

耳の奥で、頭の中で
こびりつくように半鐘の音が鳴っている。
視界の端に、ちらちらと映る袂の赤色が消えない。

未だ大きく上下する佐久間の胸と
額に浮かぶ汗に、Aがそっとその背中を撫でる。

「ソファでうたた寝しちゃってたから
　嫌な夢見ちゃったのかな。
　今日はもう帰ろう？
　歌舞伎のお稽古で疲れてるんだよ、だかぅわっ。」

Aの言葉が終わる前に
佐久間はAの体を抱き寄せて
その頭を自分の胸に強く押し付ける。

佐久間は酷く、焦って混乱していた。
現実と夢の境がまだハッキリとしなかった。

あの景色は誰が見たものだ？
半鐘を鳴らしたのは誰だ？
この悲しい決意は誰のものだ？

抱き締めたAの服の背中を
縋るように強く握り締める。

胸か、頭か、それとも身体中全てをか
荒れた河のように巡る感情は
自分でも受け止めきれないもので
まるで自分のものではないかのようなそれに
飲み込まれてしまいそうで、怖かった。

腕の中で身動ぎしたAから
くぐもった声が上がる。

「だ、いすけ、ごめ、ちょっとだけ腕緩めて。」

佐久間はふるふると頭を振って
抱き締める腕に力を込めた。
Aの首筋に鼻先を埋めて
現実を確認するように
よく知った彼女の香りを確かめる。

怖くて目は閉じれなかった。

「そんなに怖い夢だったのね。
　もっと早く起こせば良かった。ごめんね。」

腕の中身動いだAの手が、左胸に当てられて
とん、とん、と一定のリズムを刻む。
まるで子供をあやすような仕草のそれに
心臓のリズムも少しずつ落ち着いていくのが
自分でも分かった。
それに合わせて、少しだけ腕の力が抜けると
Aの手がするりと動いて
背に回されると、抱きしめられた。