Filled with happiness 1 ページ1
「何あれ。」
突然、足を止めた深澤に
並んで歩いていた阿部も足を止める。
阿部が深澤の視線を辿れば
誰でも使える事務所のオープンスペース。
そこにある大きな机を囲んで座っているのは
見知った頭、もとい顔が3つで
うち1人は、紙や筆記用具が散らかったテーブルに
頭を抱えて突っ伏している。
少しくぐもってはいるが
聞き慣れた少し高い声の関西弁が聞こえてくる。
「もう嫌やぁ。俺、こんな馬鹿やったんや…。」
「康二くんは馬鹿じゃないよ!
ちょっと、うん、ちょっと数字が苦手なだけで!
算数なんて出来なくても、康二くんはもっと良いところあるじゃん!」
算数。
そんなパワーワードで向井を慰めている末っ子ラウールが、向井の頭を撫でている。
そして残る1人、
難しい顔をしてテーブルの上の紙に
ペンを走らせているのは
深澤の最愛たるAだ。
横に立つ深澤の顔を
阿部がチラリと伺うと、阿部の予想に反して
その表情は普段と変わらないもので
腕組みをしてじっと3人を見ている。
「…みんなで勉強会、とか?」
「勉強に縁がない奴居んじゃん。」
「学ぶことに目覚めたのかもしんないじゃん。」
「んなわけねーでしょ。」
そんな2人に気付くことなく
突如パッと顔を輝かせたAが
向井の肩を叩いて、何か書いた紙を向井に見せている。
見せながらも、ペンで何か書き足している姿から
Aが向井に何かを教えているのだろうことは
明らかだが、いかんせん2人の距離が近い。
向井とは反対側からAの手元にある紙を覗き込んでいるラウールの距離も近い。
Aからの説明を聞いて
うんうんと頷く向井が、紙にペンを走らせると
わっと3人の歓声が上がり
それぞれが、ハイタッチを交わした。
「分かったぁ!」
「康二くん、分かってきたじゃん!」
「向井くん、すごい!その調子!」
当然、そのハイタッチにはAも入っているわけで。
阿部が、あ、と声を漏らすのと同時に深澤が踏み出した。
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作者名:Y.Harumizu | 作者ホームページ:http://beautifulvitamin.yukihotaru.com/
作成日時:2023年5月14日 18時