クリムゾン・ラヴ (ページ48)

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どれぐらい走ったのだろうか。

脚はふらふらで、もう走れるほどの体力はなかった。

雨を吸って重くなった服が体に張り付いていて

夏とはいえ肌寒さを感じる。

こんな土砂降りの中、傘をさしていないのは私ぐらいで

すれ違う人が怪訝そうな顔を向ける。

どこかの街中で、大きな広場みたいな場所があって

人通りが多い。

でも、頭が回らなくて、ここがどこなのか考えるのも億劫だ。

誰一人として座っていない、近くにあったベンチに座る。

俯くと目に入る、汚れた自分の足。

裸足だった。

靴、履いて来てないことにも気づかなかった。

びしょ濡れで、裸足で、酷い顔。

周りから見れば、完全に変な人だ。

頭がぼーっとして何も考えられないけど

自分が情けなくて、みっともなくて、鼻の奥がツンとする。

ぽたぽたと、膝に置く手に落ちるのは

雨の雫と、自分の涙。

ただひとり、声を殺して泣いていると

ふいに、視界が影って、雨が止んだ。

「どうしたの。
A。」

顔を上げる。

あったかい声。大好きな声。

なんで、いるの。

なんで、優しくするの。

なんで、そんな顔で、そんな、愛しそうな瞳で

私のこと、見るの。

「ソクジン、先生…。
せんせい…っ。」

色んな感情が一気に込み上げてくる。

声を抑えることもできなくて

何かが壊れたみたいに、わんわん泣きだした私の前で

ソクジン先生は黙って

私が雨に濡れないように、傘を差し続けていた。

「風邪引くよ。」

自分の手が濡れるのも構わずに

ソクジン先生はそっと、私の頭の上にその大きな手を置いた。

先生、お願いだからどっか行って。

優しくしないで。

そう言えたら楽なのに

そう言わなきゃいけないのに

言えなかった。