191.必要なのは唯一つの恐怖 ページ8
「!!」
急に、体が軽くなる。
右側に、一筋の風が吹き抜けた
その風が敵の斬魄刀であり、その斬魄刀が己の刃を真っ二つに裂いたと気付いたのは、その直後。
「…てめえは、自分の力が怖く無えんだな…敵の力も」
「底が知れるぜ」
驚愕に硬直する己の耳に届いた、見下す声。
さっきまで此方が優先だったのに、立場が一気に逆転した事が認められない
檜佐木は、風死を両手で振り回しながらフィンドールに歩み寄る。その瞳には、強い何かがあった
「“自分の握る剣に怯えぬ者に、剣を握る資格は無い”」
蘇るのは、自分が副隊長になったばかりの頃の記憶。演習の最中、自分は霊術院生だった時に失った友を思い出し、己の刃に恐れを成した
自信を無くし、降格を申し込んだ自分に、あの人はそう言った
「俺はそう、教わった」
強くなくて良い。
強くなくても良いから、己の刃に陶酔するな
その言葉は、今でも鮮明に覚えている。
それが、今の自分を作ってくれたから
「く…そ…ッ!」
武器を失ったフィンドールが、敵に背を向け逃げ出す。その情けない背中は、最早戦士を棄てていた
自分は強いと溺れたただの破面が、そこにいる。
檜佐木は、風死を構えた
「…今頃恐怖を覚えたか、漸く俺と対等だな」
風死を空中に放つ。
奇麗な円を描くそれは、一気に破面との距離を縮めた
フィンドールが、嘆きとも取れる怒号を挙げる。
すぐ側まで迫った刃を捉えたその目に、悔しみなどの感情は見られなかった
ただ、恐怖だけが映る目。
まさか、隊長格である自分が副隊長に敗けるなんて、思いもしなかっただろう
…とは言っても、それはフィンドールの陶酔に過ぎないのだが。
「…隊長格と同等か、見当違いもいいとこだぜ」
殺伐とした音が、檜佐木の声に重なる。
血飛沫が、青い空を染め上げた
.
_____ドン!!!!
安堵の溜息を遮る様に耳に飛び込んできた、轟音。
次の瞬間、その方向に目を向けた檜佐木の瞳に映ったのは、粉砕され崩れ落ちる柱の姿だった
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作者名：EGOIST | 作成日時：2016年10月25日 18時
