220.泥の城 ページ37
何も、起きなかった。
男が刀を抜くので、何をするのかと待ち構えたが、待てど待てど何も起きはせず、聴こえもせず、見えもせず、感じずもせず、匂いもしなかった
「……?」
「…何の真似だ」
「一つ、質問がしたい。君は、今の自らに満ち足りているか?」
「……何?」
「“あるべき世界と違う”と、感じたことは無いか?さらなる高みへ昇りつめようとは思わないか?」
「手を貸そう。私に従え」
「そうすれば、更なる力を、新たな世界を与えよう」
「…ク……フハハハハハハッ!!!滑稽滑稽!新たな世界だと?更なる高みだと!?笑わせるなよ!!蟻が!!!」
大きな声で高らかに嗤う。骸骨の風貌が、醜く歪んだ。立ち上がり、四人を更に見下ろす
「この儂こそが虚圏の王!!世界の王!!!この儂を超える高みなど存在せん!!!この儂が切り開くものの他に、新たな世界など存在せんのだ!!!」
「やれ!お前達!!この不遜な蟻共を叩き潰せ!!!」
その言葉で、今まで見ていただけの虚が動き出す。色んな形・風貌をした巨大な彼等は四人を取り囲んだ
「そうか、」
だが、四人は焦るどころか、眉を動かしもしない。
立ち去ろうとも逃げようともせず、そしてまた、再び交渉する気も無い様に見えた
_____諦めだ
では、何の?
.
「砕けろ、『鏡花水月』」
そんな音共に、砕け散る。そこに、もうバラガンの軍隊はいなかった。
いたのは、刀を持つ男の隣にいた二人の男に斬り裂かれ、地にひれ伏す無残な肢体ばかり。もう、バラガンの為に戦えるものはここには存在してはいなかった
「…何だ……これは……!?」
王を守る軍隊を持ってして、国は国となる。
ならば、軍隊を持たぬ国は何となる?
それはただの、子供が作った泥の城。
護る
だから、男は言ったのだ。
従え。でなければ、君の城は泥と化すと。
せっかく交渉してやったのに、バラガンは従わなかった。だから、“交渉すること”を諦めたのだ
「これが君の、世界だよ」
「貴様…!!」
「…皮肉なものだね、虚圏の王。そうして武器を構える巨大で黒い君の姿は、」
「死神に良く似ているよ」
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作者名：EGOIST | 作成日時：2016年10月25日 18時
