185.花散る瞬間 ページ2
.
「_____“誰にも…見られる事無く”…?」
掠れた声で問いかける。
自分を見上げる冷たい瞳を、視界の端に捉えた
「そうよ、あなたは自分が命を失う瞬間を、誰の瞳にも遺すことはできないのよ。美を誇りとする者には、この上無く残酷な終焉というものじゃないかしら?」
「誰の瞳にも……」
「_____そうか…」
「ありがとう」
次の瞬間、反射的に手を離す。
弓親の狂気とも取れる、冷たい海の底の様な瞳が瞳に映った気がした
そしてそれは、間違いではなかっただろう
「_____裂き狂え」
「『瑠璃色孔雀』」
言霊を唱えた瞬間、刀の源から、水の様に白い帯状のものが溢れ出す。幾重にも伸びたそれは、
「な…ッ、何よこれ…っ!?」
クールホーンの四肢、胴体に絡み付いた。
白い帯状のそれには、黒い花の花弁の様なものが幾つも付いている
「何よ…こんなもの!」
「無駄だよ」
見たところ、さして硬そうでは無さそうだ。
そう思い力で引き千切ろうとした瞬間を、反射的に否定される
迷わず、憎しみと怒りの眼差しを向けた。
今にも斬りかかりそうになったが、自由を奪われた体では何もできない
「ご覧」
三文字の言葉で、ふと自分に巻き付くそれに目を向ける。
その瞬間、それまで何の変哲も無かった白い帯状のものに付いていた花弁が、大きく膨らんだ蕾へと姿を変えた。
思わず目を見張る
「その中に溜まっているのは、君の“霊圧”だ」
「その花達は君の霊圧を奪って成長する。ここから先、君の放つ霊圧は全てその花のものとなるのさ」
「…わかるね」
…ああ、確かに、
「その花の咲く瞬間が、君の最期だよ」
「シャルロッテ・クールホーン」
全身から、力が抜けてゆく
「…く…くそォォォオオオオ!!!!」
魂の叫びが、彼に届くことを願った次の瞬間。
白百合が、一瞬で開花する
咲いた花は、美しい。
その花を見るのが、自分の死の直前なんて思いもしなかった
無念の意を心中で唱えながら、膝をつく。
視界には空が広がり、やがて、咲いた白百合の花弁が散る瞬間が、垣間見えた
【三十七巻】
人を美しいとは思わないけれど
花を美しいとは思う
人の姿が花に似るのは
ただ斬り裂かれて倒れる時だ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 364人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：EGOIST | 作成日時：2016年10月25日 18時
