11話 ページ12
「チヒロ。お前この屋敷の看護師にならないか？」
『……は？』
いきなり言われた言葉に、思わず素で声が出てしまった。
やはり自分にお嬢様役なんて似合わないな、なんて改めて自覚する。
「チヒロ・クレイシスの噂は常々耳にしている。相当腕がいいと。」
『…大変恐縮ですが。当主であるお父様が亡くなった今、私はただのチヒロ・クレイシスです。…名家に相応しい看護師とは到底思えません。』
「それはつまり、この申し入れを断ると？」
『はい。』
精一杯の断り文句を言ったはずなのだが、シエル君はそれを物ともせず笑っていた。
「何も…僕は別に名家の看護師がほしいわけじゃない。この家の使用人達は少々阿呆が多くてな、怪我を負うことが多い。そこで貴女(きじょ)の力を借りたいんだ。」
『なる程……。』
食い下がる気はないらしく、相変わらず意地の悪そうな笑みを浮かべるシエル君に心の中で少し悪態をつく。
車椅子を理由に断ることは、私の働きぶりを知る以上難しいことは理解していた。
さて、他にどう断ろうか。
「勿論、看護師としての働き以外は何も求めない。することが無いときは屋敷内で好きに過ごせばいい。」
確かに、親を亡くし家を無くし、住む場所を失った17歳の少女を誘うにはこれ以上ない口説き文句だ。
足さえあれば断ることもできたのだが…なんて役に立たない体なんだろう。
何も言えずに黙っている私を見て、次に口を開いたのはセバスチャンさんだった。
「坊っちゃんは…お嬢様の事をとても心配されていました。」
『…え。』
眉を八の字にし、憂い顔をするセバスチャンさんに、思わず声が漏れる。
「クレイシス家にはお世話になっていましたからね…悲報の知らせが届いたときに坊っちゃん自らがお嬢様を迎えに行くと…。」
『そう、だったんですね…。』
ファントムハイヴ家とそんな繋がりがあったとは初めて知ったが、それ以上にシエル君がそこまで私の事を心配してくれていることに胸を打たれた。
日本人とは、こういうものに弱い。
勿論それは私も例外ではなく…。
『精一杯、努めさせていただきます。』
そう言って、深く頭を下げた。
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お餅 - 執筆意欲無くされてしまいましたか？残念です。 (6月30日 21時) (
レス) id: ed46a196c0 (このIDを非表示/違反報告)
お餅 - 無理強いではありませんが、続きよみたいです。 (6月30日 20時) (レス) @page47 id: ed46a196c0 (このIDを非表示/違反報告)
お餅 - 来春更新……、からもう三回目春が終わってしまいましたね… (6月30日 20時) (レス) @page47 id: ed46a196c0 (このIDを非表示/違反報告)
箱 - 素敵な作品ありがとうございます (5月29日 22時) (レス) id: 4edc0c80af (このIDを非表示/違反報告)
みるく(プロフ) - 葬儀屋の嫉妬というか夢主ちゃんに対する執着心が上手く表されており、読んでいて凄く楽しかったです！とても好きな作品なので更新再開楽しみに待っております。 (2022年8月4日 15時) (レス) @page47 id: a995b7f6e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：朔夜 | 作成日時：2018年2月13日 9時
