【文スト】Dream like phantasmal girl 2【文豪ストレイドッグス】

40話 ページ6

「あっどーもこんにちはー。えっと、貴方が中也さんだよね？」

「…あ？」


冷たい石畳の訓練室。
目の前に立つ少女は、マフィアの人間とは思えない程の明るい笑顔を浮かべてヒラヒラと手を振った。
とても戦闘などできなそうな細身な小娘の姿に、中也も顔をしかめた。





「君に育てて欲しい子がいるんだ」と首領から話があったのはつい数刻前のことである。
当然、弟子などとったことの無い中也はなんとか断ろうとしたが、他ならぬ首領直下の命令。

「なかなかセンスの善い子だよ。心配はいらないさ」と押しきられる形で了承する羽目になった、のだが。




「…手前が白星Aか？」

「あ、私のこと知ってるの？えー嬉しいなー。
私も貴方のことは大宰さんからよく聞いてたけど、ホントに小さいんだねー」

「よし判った死にてえんだな手前歯ァ食いしばれ」


出会い頭に数ある地雷の中でも一番えぐい地雷を踏み抜いた少女に、中也は躊躇無く蹴りを放った。
しかし初見にも関わらず、少女は「わっ、スッゴい」と声を弾ませるとそれをひらりとかわした。


「…ほォ？避けんのか」


見た目によらず動きは善かった。
首領の云う通り、センスはあるようだ。

だが生まれ持ったセンスだけで生き残れるほど――ここは甘い世界ではない。



「ならこれならどうだ」



床を蹴りあげると、まず左に一発。
その拳を右側に避けた少女の右腕を掴み上げると「…ッかはっ」鳩尾に一発蹴りを入れる。
そしてその勢いを殺さぬまま壁に蹴り飛ばした。



「…うぐっ」



小さく呻き声をあげると、少女は糸の切れた人形のように石の床に崩れ落ちて、動かなくなった。

静寂。







「ちっ…少しやり過ぎたか」



やはり適当な理由をつけて断ろうと、中也は少女に近づく。
流石に彼も年端もいかぬ少女を其のまま冷たい床に寝かせて置く気にはなれず、
節介くらいしてやろうと手を伸ばした。

しかしその手は、他ならぬ少女によって掴まれた。


「…は？」

「素敵！スッゴいね中也さん！私驚愕しちゃったよー！」


中也の蹴りを二発も受けたにも関わらず、少女はキラキラと目を輝かせながら顔を上げた。

いや、防御も受け身もとらずまともに受けて壁に叩き付けられた筈だ。
普通なら意識をもっていかれる。
なら何故か、理由は至って簡単。





…この少女、人一倍頑丈(タフ)なのだ。







「ねぇっ、私中也さんみたいになりたい！」





＿6年前。
白星A、14歳と8ヶ月の日のことである。

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