友人 ページ5
「総統、私に何の御用ですか？」
気持ちのいい風が通るバルコニーで、急遽開かれたお茶会。
Aは紅茶を一口飲んで、話を切り出した。
「いや、本題に入る前に…その『総統』と呼ぶの、やめてくれないか。名前でいい」
苦虫を噛みつぶしたような表情でAを見つめるグルッペン。
そう言われ、Aにしては珍しく、少し考える素振りを見せてから口を開いた。
「ですが、総統はこの国で一番偉い方です。ウィルもよく言っていました。『今のトップになってから、この国は随分と過ごしやすい場所になった』と」
「しかし、君の恩師が軍にいた頃よりも、兵の実力は格段に落ちた。…そんな風に敬われる人間ではない。特に、『伝説』の力を受け継いだ、君のような人間にはな」
「確かに私はウィルに育てられました。ですが、彼の力をそのまま受け継いだわけではありませんから、私もそのように称される人間ではないです。あと、貴方のお陰で笑って暮らせる国民がいる事実は変わらないのですから、卑下する必要はないかと思われます」
淡々と、しかし当然のことのようにグルッペンを褒めるA。
グルッペンは、どうやったら総統呼びをやめてもらえるのか、頭を悩ませた。
「…あんなグルッペン。こいつには直球で言わな伝わらんよ」
２人のやりとりを傍観していたチーノが見かねて助け舟を出す。
その言葉でグルッペンはハッとしたが、Aはピンと来ないのか、ほんの少し首を傾げた。
「…友人に、肩書で呼ばれるのは少し寂しいからな。名前で呼んでほしいんだが」
「友人？私と総統がですか？」
Aがほんの少し目を見開く。
グルッペンは微笑んで、一つ頷いた。
「一緒にこうやってお茶をたしなむ仲なんだ。友人と呼んでも過言ではないだろう」
「そういうものですか…。では、これからは空いた時間にお菓子を持ってきますね、グルッペンさん」
そうしてまた、ぎこちない笑顔を浮かべるA。
グルッペンは、返事の代わりにティーカップを持ち上げてみせた。
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作者名：Blue Berry | 作成日時：2020年12月10日 15時
