見て見ぬフリ。 ページ41
ラベンダーの香りと
白濁した微温いお湯で満たされたバスタブ。
バスタブの中で、Aの背中を後ろから抱きしめる。
てっぺんでゆるく結んだAの髪が俺の頬をくすぐる。
「これだけ広かったら、二人でも余裕だね？」
お湯を手ですくいながら、後ろ姿のAがそう言う。
「いいでしょ、たまには。」
Aの肩に顎を乗せると、柔らかい頬がこめかみに当たる。
「うん、楽しい。」
どんな些細なことでも、Aが笑うと嬉しかった。
Aの姿がセクシーで、綺麗で、完璧で、
もう俺のところ、来ちゃいなよって思う。
今までのこと全部忘れて、来ちゃえばいいのに。
そう思うと同時に、
あの日見た涙とAの過去を知りたい気持ちもあった。
見て見ぬフリ出来たら楽だろうけど、
それじゃ、いつまで経ってもAのこと
分からないんじゃないかって、そう分かってる。
だから、
「ね、聞かせてよ。彼のこと。」
そう口にしてた。
「彼？…ああ、リュウセイのこと？」
なんてことないように、Aが彼の名前を呼ぶ。
名前を聞くと、あの日のことが頭に鮮明に蘇った。
パブから涙を浮かべて出て行ったAと、
それを追いかけて出て行く背が高い細身の男。
泣いちゃうくらいに、まだ好きなの？
「そ。」
そんな心のうちがバレぬように、短い返事をした。
「…あの日はあんな姿見せちゃったけど、未練とかは全くなくて。
ジヨンに呼び止められて、泣いてることに初めて気づいたの。」
おかしいでしょ？そう言って笑うA。
実際、Aがどんな顔してるのか、俺には見えなかった。
「でも、大切な人だったんだろ？」
「うん、長い間付き合ってたからね。
でも、最後は２人ともボロボロ。喧嘩しかしてなかった。
それでもね、黙っていなくなるなんて思ってなかったの。」
そう言ってAは肩に回した俺の腕に頭を乗せた。
Teddyヒョンもそう言ってたっけ。
２人はよく喧嘩してたって。
「どれだけ長い間一緒にいても、
寄り添えてなかったんだって。」
「うん。」
「そんなに長いこと付き合ったのリュウセイが初めてで、
ちゃんと好きだったし、ずっと一緒にいるって思ってた。
なのに、全然上手くいかなくて、最後はサヨナラもなくいなくなるし。」
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作者名：carly
| 作成日時：2020年5月20日 21時
