俺が嫌だから。 ページ24
「Aの小説、読んでるんだ。」
まだ１冊目だけどね、
そう付け足して、はにかむジヨン。
「買ったの？」
「もちろん。」
「読まなくていいのに。」
知ってる人に本を読まれるのは、少し緊張する。
出版してから時間が経ってる本なら尚更だ。
過去の私の考えや気持ちが、
今、相手に伝わるわけだから。
「今も書いてんの？」
「書いてないよ。」
「なんで？」
「…書きたいことがないから。」
半分本音で、半分は嘘だった。
正しくは、書きたくないからだった。
「ふーん…大変なんだな、小説家も。
てか、なんで顔公表してないの？」
「デビューしたのが大学生の時っていうのもあったし、
ずっと小説を書き続ける自信もなかったから。」
「なるほどね。
確かにそれは正しい選択だったかもな。」
ジヨンのその言葉は、どこか意味深に聞こえた。
G-DRAGONの顔を知らない
同世代の韓国人は、まずいないだろう。
「ジヨンは、そうはいかないもんね。」
私の言葉に、コクンとジヨンが頷いた。
ステージの上で大勢に向けて歌うジヨンには、
私には想像しきれない苦労や責任があるだろう。
「まあ、でもそれで良かったかな。
Aがイ・ソラだって知る前に、出会えたし。」
「なんで？」
「なんか得した気分じゃん。」
そう言って笑うジヨンが、かわいらしく思えた。
"俺と飲む方が楽しいよ"
ジヨンのその言葉は、正しかった。
でも、ジヨンといることで自分が変わるのが怖くて、
ジヨンに、なびきそうになる心がひどく嫌で、
その優しさにさえ、気付かないフリをした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 175人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：carly
| 作成日時：2020年5月20日 21時
