逃げられない。 ページ17
「連絡先教えてよ。」
駅まで車で送ってくれたジヨンが、
ドアに手をかけた私にそう言う。
「…どうせパブで会うんだから良くない？」
「俺だって、そんな暇じゃないの。」
「昨日私に会うまで、毎日通ってたくせに。」
ジヨンが忙しいのなんて、言われなくたって想像つく。
だから、毎日通ってたなんて、ユウタから聞いた時は驚いた。
「それは、たまたま行けてただけ。」
はぐらかすようにそう言うジヨンの横顔を眺めた。
「まだ逃げるつもり？」
黙ったままの私に、ジヨンはそう言った。
連絡先なんて知らなくったって、
ジヨンはまた私の前に現れる、そんな確信があった。
自惚れとか、自意識過剰とか、そういうのじゃなくて、
ジヨンからは、もう逃げられない気がしてた。
ジヨンに連絡先を渡し、車を降りた。
「連絡するから。」
駅に向かおうとする私に
ジヨンはその言葉を残し、車を走らせていった。
今日は電車の中で眠ることなく、最寄駅についた。
いつも通り本屋に寄り、本を買って、家に着いた。
買った本を袋のまま、床に置いて、
昨日パブに行く前に閉めたままだったカーテンを開けた。
ソウルの空はいつも通りの青で、
窓を開けて、部屋の空気を入れ替える。
そして、そのままベッドに横になった。
ジヨンの部屋で、しっかり寝たはずなのに、
なんだか、よく分からない疲れを感じた。
いつもだったら、使わない神経を使った気がする。
でも、ジヨンといる時間は嫌じゃなかった。
私に何も強要しないところとか、
私の言葉を遮らず、聞いてくれるところとか、
ジヨンの言葉にも迷いがないところとか。
割り切って、浅く緩く自由に楽しむ方が私には合ってる。
そう分かってるのに、ジヨンのペースに飲まれて、連絡先まで交換してしまった。
♪♪
携帯が鳴り、画面を見ると
ジヨンからのメッセージだった。
『次、いつ会える？』
そのメッセージをしばらく眺めた。
断ればいいし、無視だって出来るはずなのに、
私には拒否権がない気がするのは、相手がジヨンだからだろう。
『水曜の夜、パブで。』
短く、そう送った。
『遅くなるかもしれないけど、待っててくれる？』
すぐに届いたジヨンからの返信。
次の日の予定は、特にない。
『いいよ。』
ジヨンのメッセージにそう返信をした。
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作者名：carly
| 作成日時：2020年5月20日 21時
