何も起こらなかった夜。 ページ16
目覚めると、
窓の外には青空が広がっていた。
だいぶ、ゆっくり眠った。
寝返りを打って、隣を確認した。
あの日みたいにもう隣にはいないかも。
そんな不安が心を覆っていたから。
でも、俺の予想は裏切られて、
Aの健やかな寝顔がそこにあった。
…ずるくない？
抱けなかった夜に限って、
こうやって、朝まで隣にいるなんて。
「ん〜…」
吐息混じりの声を漏らして、ゆっくり目を開けた。
「ジヨン…おはようう〜」
そう言って大きな欠伸をする。
「おはよう。」
何気ない朝の挨拶も、
俺の名前を呼ぶその声も、
窓から溢れる光を浴びるAの寝顔も、
あの朝、どこを探しても見つからなくて、
手に入れられなかった全てだった。
「よく寝た？」
「うん、広いベッドってやっぱりいいね。」
眠そうにそう言って、両手を広げてみせるAに
俺の頬に笑みがこぼれる。
「…今何時？」
「昼前くらい。」
携帯の時計を確認して、そう答えた。
聞いた割にAは大して興味なさそうだった。
「A、仕事は？」
「ない。」
即答するAに、そういえば何の仕事してるの？
そんな疑問が浮かんだけど、
「ジヨンは？」
Aがそう尋ねるから、聞かなかった。
「支度したら、事務所行くよ。」
「そっか…私も帰ろーっと！」
Aは起き上がり、大きく伸びをした。
まだどこか虚なその横顔を見つめる。
俺の視線に気付いたのか、
俺を真っ直ぐ見て、Aは口を開いた。
「本当に何も起きなかったね、私たち。」
どこが冷めたようなAの言葉。
あの日のような笑顔は見せてくれないA。
どうしたら、あの日みたいに笑ってくれる？
どうしたら、Aは俺に興味持ってくれるの？
Aには、何も起きなくても、
Aにとっては、何ともなくても、
俺には、そうじゃないよ。
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作者名：carly
| 作成日時：2020年5月20日 21時
