月明かりの下。 ページ27
満月の明かりが照らすスタジオ。
先にデスクの下から抜け出したAが
俺を助けるように手を差し出す。
その手を取って、立ち上がった。
手を離すと、ヒールを履き直そうとするA。
デスクの下で痛めていた足が心配になり、
「足はもう平気？」
Aにそう尋ねた。
「うん、大丈夫。」
片足をヒールに突っ込んだAがふらつく。
咄嗟にAの手を掴むと、強く握り返すその手。
「…ありがとう。」
少し照れ臭そうにそう言って、
俺の手を頼りにヒールを履いたA。
Aには、手助けしたくなる何かがある。
雨に打たれてたあの日も、
ヒールの痛みに耐える横顔も、
足元をふらつかせながらヒールを履く姿も。
たぶん、自分から助けを求めたりしないからだ。
自分の欲望を口に出したりしないから。
気をつけて見てないと、と思ってしまう。
見逃さないようにしないと、と見つめてしまう。
そんなことを考える俺をよそに、
「…もう大丈夫かな？」
俺の手を離したAは心配そうに
ガラス張りの扉の向こうを気にする。
「多分ね…ま、座って。」
今度はデスクの下なんかじゃなくて、ちゃんとしたチェアに。
Aのために椅子を引いた。
満月の明かりはこんなに強いものかと思うくらいに
十分な光が窓からスタジオに差し込む。
「ここで曲作るの？」
「そうだね、基本このスタジオが多いかな。」
俺の言葉を聞きながら、
キョロキョロとスタジオ内を見回すA。
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作者名：carly
| 作成日時：2021年2月5日 20時
