ステージの裏。 ページ10
ソウル公演の初日。
Aが観に来てくれている日。
なのにコンディションは良くない。
というか、最悪？
日本でのドームツアーとテレビ出演。
やっと帰国したと思えば
すぐにソウル公演の準備と
リハーサルをして、もう当日。
帰国してから日数は経っているのに
休む間もなく働き続け、今日まで本当に一瞬だった。
「ヒョン、大丈夫ですか？」
瞳を閉じていても、声で分かる。
その言葉の主がテソンであること。
「…ん。」
心配するその声に、大丈夫なフリもできず
ソファに寝そべったまま、目も開けずにそう答えた。
「今日はマジですぐ帰って休めよ。」
ヨンベのその言葉と同時に額に触れる手。
瞳を開けると
「熱はなさそうだけど。」
桃を食べながら、ヨンベがそう言った。
本番まで、もうすぐ。
この２時間
いや、２時間半を耐え抜けば大丈夫。
今日帰ってホテルでしっかり休めば
明日には、少しはマシになってるはずだから。
重く怠い身体を起こして、水を飲む。
何か食べておいた方が良いのは分かってる。
でも食欲は皆無で、何も食う気にならない。
唯一食べたいなって思うのは、Aが作る茶碗蒸しで。
仕事ひと段落したら、絶対頼もう。
なんてったって、今日はAが来る日。
俺から誘ったんだから、楽しんでもらいたい。
ステージを挟んだ向こう側の客席に、Aはもう来てるの？
Aがいると思えば
こんな体調でも、いつもより気合が入るのは、
クォン・ジヨンを見てって言ったくせに
結局はG-DRAGONまで格好良いと思って欲しくて。
特定の人が来てるからって
そんな風に思うのは、プロ失格なのかもしれない。
それでも
この不調が誰にも伝わらぬように
しっかりやりたい。演じ抜きたい。
結局は、きっと、そこなんだ。
「開始５分前です。移動してください。」
スタッフにそう声をかけられ
大きく伸びをして、頬を両手で叩いた。
大丈夫、大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、イヤモニを耳にはめて
歓声が響く舞台裏の廊下を歩き出した。
Aの席はステージがよく見える二階席の中央に取った。
座ってゆっくり楽しんでもらえたらって思ったから。
アリーナのスタンド席は、ファンが密集してて
押し合い、せめぎ合いで、疲れるだろうし。
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作者名：carly
| 作成日時：2020年7月19日 18時
