溶かす温度。 ページ34
ごめん、だなんて。
Aにそんなふうに思って欲しくなくて、
「ううん……ありがとう。」
そう小さな声で呟いた。
「…なんか、必要なものあれば買ってくるけど？
どうせ、冷蔵庫とか空だろ？」
ヨンベはそう言って、キッチンの方に向かっていく。
「Aもあがって。」
俺もまだAの目を見れなくて、
なんだか気まずいその空気を誤魔化すようにそう言った。
「お邪魔します…」
Aは靴を脱いで、俺の後ろに続いて
キッチンの方に足を進めた。
「何が欲しい？」
見事に空の冷蔵庫の中を眺めながら、ヨンベがそう尋ねる。
「…なんでもいい。」
食欲なんて、もともとないし。
食べなきゃならないのは分かってるけど、
どうしても、その気になれなかった。
「私もヨンベさんと一緒に行きます。」
Aは大きく頷いて、そう言った。
「うん、そうしてくれると助かる。
…じゃ、買い物行ってまた戻ってくるよ。」
ヨンベはそう言って、車のキーを握り直した。
「後で、茶碗蒸し温めるので、食べましょう。」
キッチンのカウンターに持っていた紙袋を置いて、
Aがそう言った。
「うん、食べる。」
何も食べたくない、何も要らないって、
間違いなくそう思ってたのに、そう即答してた。
そんな俺に、Aは優しく微笑んだ。
買い物に行く２人を玄関まで見送り、
俺は１人寝室に戻って、横になった。
２人が来る前まで感じてた孤独感や不安は、
見事に溶けてなくなってた。
優しく包んでくれたAの温度を
忘れたくなくて、俺はまた瞳を閉じた。
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作者名：carly
| 作成日時：2020年7月19日 18時
