【CS】幽寂が揺らぐ (ページ4)

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卒業を目前に控えたある時、アドラシオは恋人に呼び出された。深刻そうな顔をした彼が告げたのは、「別れて欲しい」という言葉。アドラシオが「どうして」と聞くと、彼は理由を話し始めた。
戦士団に所属している彼は、先日魔法界で起こった、海賊が無差別に一般市民を攻撃し暴れるというテロの鎮圧に携わった。そこで、海賊が放った魔法が当たりそうになっていた少女を防御の魔法で助けたのだという。それだけで終われば良い話だった＿＿が。その時助けた少女が彼に一目惚れしたらしく、なんと「婚姻を結びたい」と言い出したという。彼はそれを断らなかった＿＿というより、彼に断るなどという選択肢はなかった。何故なら、少女は高名な貴族の娘だったから。
話し終わると彼は、「君とはもう会えない」と言った。勿論、そんなもの納得できる訳がなかった。言いたい事はたくさんあった。しかし、何も口に出す事はできなかった。彼を咎めればどうにかなる問題ではないと分かっていたのだ。
「好きなだけ恨んでくれ。憎しみが生まれるなら、その全てを俺に向けて構わない」＿＿その言葉を最後に、彼はアドラシオを捨てた。それ以来、アドラシオは一度も“恋”をしていない。
アドラシオが狡猾な人間で在ろうとするのは、愚直にたった一人を愛し続け、その果てに恋人に捨てられたこの経験からである。

《備考・特記事項》
星にまつわる神話が好きで、関連した書物を数多く収集している。身の回りで起こった事を神話に例えて話す事がある。
神話のような激動的な恋愛に憧れている節があり、恋愛においては障壁が多い方が寧ろ燃えるタイプ。

元恋人に人間界のニホンという国で伝わる“目弾き(目元にする紅の化粧)”の文化を教わってから、自分でも目弾きをするようになった。それ以来、一日も欠かす事なく目弾きをしている。元恋人に未練があってそうしている訳ではなく、単に習慣化しているから今でも続けているだけ。
元恋人からよく人間界の話を聞いていた為、少しだけだが人間界についての正しい知識を持っている。

リングラヴィン寮という、愛に生きる者たちが集う寮の寮監だからか、生徒から恋愛相談をされる事が稀にある。アドラシオは、その相談の全てに真摯に応えている。

自分の授業中に寝ている生徒がいる時は、その生徒の両頬を引っ張って起こす。アドラシオはそれを「お仕置き」と呼んでいるが、痛くなるほど強く引っ張る訳ではなく、引っ張ってみて起きなかったら普通に揺すって起こしている。要するに「お仕置き」と言っても名前程の内容ではない。