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「沙月、今日もダメなの？」
弱々しく私の部屋の扉をノックする母の声。
私はその声に反応すらしない。
暗い部屋でテレビの光が私の小さな体を照らした。
カーテンは閉めきり、電気を消し、テレビの音量を消して
私は今日も部屋の中に閉じこもっていた。
今日もダメなの？
母が毎日会社に行く前に私にかける言葉。
私にはもうそれが心配する言葉というより、私を疑う言葉にしか聞こえなくなった。
しばらくして母が階段を降りて玄関に向かう音が聞こえてきた。
私は、不登校だ。今年で中学3年生。受験生。
受験生という重荷が私を不登校にした、というのなら
その方が少し楽なのかもしれない。
思い出す度に吐き気がする。教室。
─────
『男子に色目使って
まじウケるんだけど』
事の発端はいじめだった。
私がクラス内カースト上位の女子の好きな人を横取りしたという馬鹿らしい理由。
最初の頃はまだ味方がいた。
大丈夫、気にしない方がええよ、何度も私に声をかけてくれた。
まぁ、それだけだった。
『やっぱ自分かわいいって思ってるよね
まじうざいわ、沙月』
『それな』
女子トイレで聞いてしまった会話。
それは味方だと思っていたその人たちの会話だった。
私はその次の日から、学校に行けなくなった。
────
けれどそんな理由のいじめを親に話すことが出来ず、4ヶ月。
もう3年の2学期になっていた。
部屋の前にはお母さんが置いていく高校のパンフレットが置かれている。
「高校……か」
私は消え入るような声で呟いた。独り言。
そして、部屋の前に置かれたパンフレットを取る。
廊下の電気まで消えていた。
私は部屋の前にしゃがみこんでそれらに目を通していった。
気づいたこと。きっと親は気づいている。
私がいじめられていた事を。
なぜなら、そこに置かれたパンフレットは全て、県外の学校のものだった。
稲荷崎高校、吹奏楽の強豪。
私はその中でその高校に興味を持った。
とでも言えば、お母さんは安心するだろうか。
私はそんなことを考えながら、親が帰ってくるのを待った。
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作者名：綾鷹 | 作成日時：2018年8月9日 23時
