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07章:名前 ページ7




御幸「なぁ蔵沢、ちょっと質問してい?」

蔵沢「…改まって何?怖いんですけど…」



移動教室に向かう途中、前から気になってたことをさりげなく聞いてみる。



御幸「倉持のことは何て呼んでる?」

蔵沢「えっ?倉持…だけど?」

御幸「じゃあ俺のことは?」

蔵沢「御幸くん」

御幸「だよな。何で倉持は倉持で、俺はくん付けで呼んでんの?」



さりげない質問と見せかけて…

『俺のことも呼び捨てで呼んでくれ!』という、俺なりに考えた精一杯のアピール。



これでだいぶ自然に誘導出来た… ハズ…



蔵沢「最初呼んだ時の流れで呼んでたから気にしてなかったけど…確かにそだね」

御幸「だろ?」

蔵沢「じゃあ…呼び捨てで呼んだ方がいい?」

御幸「蔵沢が呼びやすい方でいいよ」



おいコラ… 御幸一也ぁああぁぁーっ!!



せっかくのチャンスに曖昧に答えたことを、俺の中の俺が激しく怒鳴る。



御幸(野球だとチャンスに強い方だと思うけど、こーゆーのは全然ダメだな…)



今さらどうしようもない回答ミスに、ガシガシと頭を掻く隣で蔵沢が口を開く。



蔵沢「…最初倉持が『御幸』って呼んだ時、私てっきり下の名前かと思ったよ」

御幸「へ?あ、あぁ…よく言われる」

蔵沢「『御幸』って珍しい苗字だよね?」

御幸「全国でも120人〜150人だってよ」



完璧に逸れてしまった話題に心の中で肩を落とし、一度逃してしまったチャンスをどうしたものか考えていると…



…ん? 待てよ‥ 確かさっきの会話の中で…



ハッと顔を上げて隣を見れば、少し頬が赤くなってる蔵沢と目が合う。



蔵沢「御幸」

御幸「何だよ」

蔵沢「…呼び方変えるのって何か照れるね」

御幸「…呼ばれる方も若干ハズいな」

蔵沢「……さっきの会話でも、実はさりげなく言ってたんだよ?」

御幸「……悪りィ、気付いてなかったわ」

蔵沢「………そか」

御幸「………おう」



2人の間に照れくさい空気が流れる中、移動教室のドアが見えた所で、廊下にチャイムが鳴り響く。

その音と同時に走り出した蔵沢が、教室のドアを開けた前で俺の方にくるりと振り返る。



蔵沢「御幸〜!遅れるよ〜!」



笑顔で向けられたその言葉に、ドクンッと鼓動が大きく跳ね上がる。



御幸「…ずりー…」

倉持「廊下の真ん中で座ってんじゃねーよ」



余韻に浸る間もなく、しゃがみ込む俺のケツを、後ろから来た倉持に蹴り上げられた。


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作者名:華うさ | 作成日時:2016年5月20日 22時

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