33章:呼出 ページ33
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御幸「ふぅ〜‥」
倉持「足だりぃ‥」
先輩たちの噂通り、自分たちの想像以上に、肉体的・精神的にも追い詰められてる冬合宿。
最終日までまだ日にちがあるにも関わらず、身体はすでに悲鳴を上げ、1年生の大半がグロッキー状態。
そんな状況の中、迎えたクリスマスイヴ前日‥
倉持「っと!」
御幸「わ、わりぃ!!」
ショートの倉持に投げた送球が逸れ、センターの純さんがその捕球に入る。
亮介「御幸が逸らすとか珍しいじゃん」
倉持「たぶん緊張してんじゃないッスかね」
亮介「何それ‥倉持、後で集合」
倉持「ヒャハハ!了解ッス」
明日の夜時間が欲しいことを練習終わりに伝えようと、全身が緊張に支配された瞬間、らしくもない数年ぶりの珍プレー。
逸らした倉持の方を見れば、亮さんと一緒に口元をグローブで隠すも、見ただけで伝わってくるニヤニヤ顔。
かっこわりーとこ見られたかな‥と、マスクの中で視線を動かせば、何かに躓いたのかタオルを豪快に投げ出した蔵沢。
御幸「‥集中、集中‥」
その姿に吹き出しそうになるのを必死に堪え、邪念を振り払う様に、パンッ!とミットの乾いた音を響かせた−‥
御幸「‥ふぅ〜‥」
あの珍プレーの後はそつなく練習をやり遂げ、大きく息を吐きながら、お呼び出しの事前通達に挑む。
梅本に聞けばランドリー室にいるらしく
‥そーいや、水族館に誘ったのもランドリー室前だったな‥
ほんの4ヶ月前のことを懐かしく思いながら向かっていると、視線の先に現れた人物に心臓が跳ね上がる。
御幸「‥タオルぶちまけてた蔵沢さん?」
蔵沢「み、見られて‥!送球逸らした御幸さん?」
御幸「‥お前もちゃっかり見てんのな」
へっへーんと鼻を擦る蔵沢を見ながら、心の中で何度も呼吸を落ち着かせ、ゆっくりと本題を切り出す。
御幸「あの‥さ、明日の夜、みんなでクリスマス会するだろ?」
蔵沢「うん!ケーキ楽しみにしててよ!」
御幸「‥その後、Aグラウンドまで来てくんね?」
蔵沢「別にいいけど‥私何かしたっけ‥?」
御幸「はっはっは、じゃあよろしくな」
前哨戦にも関わらず、早くも心臓が痛いほど暴れ回り、本題だけ伝えると足早にその場を離れる。
御幸「不自然じゃなかったよな‥?こんなんで明日大丈夫かよ‥」
髪の毛をポリポリと掻きながら、苦笑いを浮かべるも、未だにうるさい心臓は正直で‥
この日何度目か分からない大きな息を、腹の底から吐き出した。
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作者名:華うさ | 作成日時:2016年5月20日 22時