六拾伍 ページ19
(待て……やめてくれ)
声が出ないならと手を伸ばす。
だがそれも虚しく、俺の手は空を切った。
女の首元に向けて鋒の光が落ちていく。
(やめてくれ……!!!)
____パシャッ
赤が飛び散った。
黒い空間の中に、嘲笑うように鮮やかな赤が咲いたのだ。
俺は、ただ見ていることしか出来なかった。
ただその光景を、自らの愛しい人が崩れゆく光景を見ていることしか出来なかった。
…………そうか。
俺はずっと、求めていたのだ。
冷たくなってしまったその体を抱き締めながら彼女の死を認めず、訪れる少年たちに、この町の美しい少年たちに、彼女の影を、息子の影を求めていたのだ。
……鬼になってまで、自らの無力さに気付かないふりをしていたのか、俺は。
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「…………?」
鬼は、その時初めて己の首が斬られていることに気がついた。
『……オニィサン』
「……お前…」
Aがその碧い眼を鬼に向けている。
怒りでも哀れみでもない、まるで幼子を慰めるような優しい、優しい視線だった。
『誰でも後悔はあるもんや。ただアンタは、それに負けた』
「…………あァ……俺ァ、やっと死ねるのかァ……?」
『…死ねるで。静かにな』
崩れゆく彼の姿。
風に吹かれて消えてゆく彼をしっかり最後まで見届けたAは、刀を地に刺して屈み込むと手を合わせた。
『…………来世は間違わんようにな』
立ち上がって引き抜いた刀を振り、付いた血液を払う。
そして鞘に収めずにそのまま背後を振り返ると背後に広がる無数の気配にフッと笑った。
Aには分かっている。
今この場にいる鬼たちが、爛々と目を光らせてこちらを見つめていることが。
『急かんでも一人一人じっくり相手したるさかい、』
そんな血走った色やめてくれ。
気ぃおかしなりそうや。
そう呟いたAはスゥー……と息を吸い込むと、静かに目を瞑った。
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karion(プロフ) - こんなに感動したのは久々で思わず泣いてしまいました(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)続き楽しみにしています(≧∀≦) (5月19日 17時) (レス) @page50 id: d59aca9a13 (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - トカゲさん» ありがとうございます!ただいま制作中ですので、お楽しみに!! (2020年5月14日 17時) (レス) id: dd9aff063c (このIDを非表示/違反報告)
トカゲ(プロフ) - すごい面白かったです!!続きが気になっております!続編頑張ってください! (2020年5月10日 22時) (レス) id: 8140af0e98 (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - スリーパー(?)さん» 涙まで……!!ありがとうございます、本当に嬉しいです!更新、頑張りますね!もう少し、静柱のお話にお付き合いよろしくお願いいたします! (2020年4月28日 15時) (レス) id: dd9aff063c (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - 雪もちさん» その言葉だけでも励みになります!ただいま下書きに勤しんでいますので、今後も応援のほど、よろしくお願いいたします! (2020年4月28日 15時) (レス) id: dd9aff063c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タロ。 | 作成日時:2019年10月20日 19時