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「……これ」
側まで来てくれた恵くんが両手を差し出す。
「俺と虎杖で探したんですけど、これしか見つからなくて。少なくて申し訳ないです」
その手のひらの上に乗っていたのは、建人さんの腕時計と、銀色の指輪。
時計の針は、23時29分を差したまま止まっていた。
落としきれていない血の赤黒い斑点が目に留まる。
……そう言えば、スーツを血だらけにして帰ってきたこともありましたっけ。
あの時のジャケット、結局クリーニング屋さんには引き受けていただけなかったんですよ、建人さん。
そっと胸にそれらを抱いた。
冷たい金属の感触が手のひらに食い飲んでいく。
腕時計を付けていた左腕は、
指輪をはめていた左手は、
もう私を包んでくれない。
彼の両手に息子を抱くことすらも許されなくなってしまった。
無念が重なる。
「………………おかえりなさい」
･
呪いは、非術師からしか生まれない。
私はそれを知っている。
死なないでくれ。
置いていかないでくれ。
そんなことは思わない。
思ってしまったが最後、この思いは彼に対する呪いになる。
愛という呪いでもう彼を縛ったというのに、これ以上の無理はさせられない。
……分かっていても、彼の温もりの消え去った腕時計と指輪に触れてしまえば、寂しさというものは込み上げてくるものだ。
最期を看取ることも出来なかった上に、遺体に触れることも叶わない。
……もしわたしにも呪力があったら、
もし彼と同じ世界に生まれていたら、
こんなことにはならなかったのではないか。
同じ世界で同じものを見て、
同じような最期を迎えられたのではないか。
そんな想いに駆られずにはいられない。
なんで自分は無力なんだろう。
無力に生まれてしまったんだろう。
そんなどうしようもない疑問ばかりが心の内を占めていく。
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黒猫25 - ただただ感動しました。七海さん、推しなのでとても嬉しいです！ありがとうございます (2022年4月19日 22時) (
レス) @page47 id: 270b34836a (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - 六花さん» コメントありがとうございます…！七海さんらしい、という言葉が何よりも嬉しいものでございます。夫婦は似るもの、という言葉に倣ったエンドにしたかったのです。ハッピーエンドと感じていただけたのなら光栄でございます。本当に、ありがとうございます！ (2021年4月15日 8時) (レス) id: 6d2f9f581f (このIDを非表示/違反報告)
六花 - やっと七海さんらしい夢小説に出会えました。悲しくてさみしくて読みながら泣きました。終わり方もとてもよかったです。旧住まいに戻りそこから未来が続いていくと感じられたところが特に。最後の電話のやり取りなんて堪らないです。ハッピーエンドだと感じました。 (2021年4月13日 18時) (レス) id: 001585b729 (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - マリイさん» あなた様の解釈に一致していれば幸いでございます。通りすがりにでも一読していただき、誠に有難うございました。 (2021年3月7日 18時) (レス) id: 6d2f9f581f (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - 建人は私の夫 建人の方からプロポーズして来た建人は私が居ないと私に愛されてないと建人死んじゃう建人は私には超過保護 (2021年3月7日 11時) (レス) id: 421640d4d1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：タロ。 | 作成日時：2021年1月28日 2時
