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おい、と引き止めた恵くんの手を振り払って、青年は私の前まで歩み寄り、彼が私の目の前で深く頭を下げた。
何故だか無性に腹が立った。
「おれ…俺……目の前にいたんです。……俺がもうちょっと早かったら…」
答えなかった。
否、答えたくなかった。
それじゃあまるで、彼が弱かったような言い草ではないか。
彼は…私の夫は、子供を盾にするような大人ではない。
無碍に扱うような人でもないが、悠仁くんにその気がなくても、私には建人さんを侮辱されたような心地がしたのである。
静かな怒りと困惑が胸の中を渦巻いていく。
良かれと思って言ってくれた彼の言葉に責任はない。
ここで私が冷静さを崩すのは、“大人として”あるまじき行為であると自分を制した。
落ち着け。
まだ悠仁くんは何かを伝えようとしてくれている。
「……でもナナミンは、……ナナミンは、最後までかっこよかったっすよ」
____ナナミン。
その呼び方に、嗚呼この子が、と思う。
この子が、いつか建人さんが言っていた厄介な子。
他人の死に真剣に怒ることの出来る、優しい子。
人の良さそうなその声で分かる。
散々、建人さんのお話を聞いていたから余計に理解出来る。
この子は確かに、建人さんを慕ってくれていた。
それは彼のいない今も一緒。
彼の中に呪術師としての建人さんが生きているということが伝わってくるものだから、ツン…と鼻の奥が痛んだ。
「笑ってたんです……俺、ブチ切れてたから記憶飛び飛びっすけど……でもナナミンが笑ってたのは覚えてます」
彼の最期を懸命に伝えようとしてくれるその姿に、私は涙腺が緩みそうになった。
____分かっていた。
建人さんが戻ってこないのは。
ズキンと頭が痛んだあの時、ふと思ったのだ。
もう、あの人には会えないのかもしれない、と。
縁起でもないこと思うんじゃない。
そう考えて振り払ったつもりのその予感は、この子を産んでも消えなかった。
漠然と、1人でこの子を育てなきゃと思ったのだ。
「最期…建人さんは何か言っていましたか」
「俺に……後は頼みますって」
「そうですか。……そうですか」
彼は、呪術師として死んだのだ。
きっとそうだと私にはわかる。
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黒猫25 - ただただ感動しました。七海さん、推しなのでとても嬉しいです!ありがとうございます (2022年4月19日 22時) (レス) @page47 id: 270b34836a (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - 六花さん» コメントありがとうございます…!七海さんらしい、という言葉が何よりも嬉しいものでございます。夫婦は似るもの、という言葉に倣ったエンドにしたかったのです。ハッピーエンドと感じていただけたのなら光栄でございます。本当に、ありがとうございます! (2021年4月15日 8時) (レス) id: 6d2f9f581f (このIDを非表示/違反報告)
六花 - やっと七海さんらしい夢小説に出会えました。悲しくてさみしくて読みながら泣きました。終わり方もとてもよかったです。旧住まいに戻りそこから未来が続いていくと感じられたところが特に。最後の電話のやり取りなんて堪らないです。ハッピーエンドだと感じました。 (2021年4月13日 18時) (レス) id: 001585b729 (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - マリイさん» あなた様の解釈に一致していれば幸いでございます。通りすがりにでも一読していただき、誠に有難うございました。 (2021年3月7日 18時) (レス) id: 6d2f9f581f (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - 建人は私の夫 建人の方からプロポーズして来た建人は私が居ないと私に愛されてないと建人死んじゃう建人は私には超過保護 (2021年3月7日 11時) (レス) id: 421640d4d1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タロ。 | 作成日時:2021年1月28日 2時