貴方の面影を。【七海建人】

･ ページ28

･





「男の子か女の子、どちらでしょうね」

「次の検診で分かるんでしたっけ」

「えぇその予定ですよ。建人さんはどちらがいいですか？」

「さあ……私は……。私はどちらでも嬉しいですかね。健康でさえいてくれれば、それでいい」






強いていえばですよ？と聞いても、どちらでも構いません、と一貫して同じ返事。






「あ、ですが」

「…？」

「貴女に、似ていればなとは思いますかね」

「まあ、どうして？」

「きっと愛らしいでしょうから」






なんて甘い言葉を吐くんだろうと思った。
女を喜ばせるのが得意なのか、たまに建人さんはこういうことを言う。

しかし困るのが、建人さんの発言に嘘偽りがないということ。
本当に思っていることしか彼は言わないので、反応に困るのだ。

でもこればっかりは私だって負けていられない。
彼の手に自分の手を重ねて、得意げに言う。






「私は貴方に似た子がいいです」

「なぜです？」

「きっと真っ直ぐに育ちますもの」

「目付きが悪くなるかもしれませんね」

「もう、建人さんったら……」






指が絡んだ。
静かなこの時間がずっと続けば幸せなのに。






「…これから、忙しくなるんですか？」

「え、」

「五条さんから。最近よくかかってきてるじゃないですか」

「あぁ……はい。少しイレギュラーが発生しましてね」






気まずそうに目を逸らした建人さんの頬に触れる。
目線を合わせるようにわざとこちらへと持ち上げれば彼は少しだけ息をついて立ち上がった。

ポスンと隣に座り直した建人さん。傾いたのと同時に肩にもたれかかって、そっとくっついた。






「……去年、貴女が読んでいた本に【鬼神】についてあったでしょう」

「よく覚えていましたね……腕が4本でお顔が2つ、でしたっけ」

「そうです。…鬼神……我々は【両面宿儺】と呼んでいるんですがね」

「あら、実在するんですか」

「有名な呪いですから。…アレは1000年以上前に実在した、最悪の呪いです」

「それでその、リョウメンスクナがどうしたんです」

「……つい先日、男子高校生に受肉したと報告を受けました」






受肉した。

この単語だけで事の重大さは私にだって分かった。
受肉とは、霊が肉体に結合すること。つまりは、






「……蘇った、ということですか」






よりにもよって子供の身体に、と続くはずだった私の口は声を失う。
実際に言葉として紡ぐには残酷すぎる出来事だったからだ。



･

･→←･

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す