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ガチャリ、と鍵の開く音がしたのは2時頃だった。
反射的に本から目線を上げ、玄関へと小走りになる。
廊下に通じるドアを開けた瞬間、僅かながらに血の匂いが鼻腔をくすぐった。
ふとした違和感。
「おかえりなさい、建人さん」
いつも通り声をかけ、建人さんの方へと駆け寄る。
廊下の電気が消えている。
足元が暗いといけないと思ってスイッチの方へと手を伸ばした。
「っ、待って、ください」
彼の声に動きを止める。
「……電気は付けないでください」
いつもと違う。直感的にそう思った。
素直にスイッチに伸ばした手は戻したが、また1歩建人さんの方へ歩み寄ろうとすると、それも止められる。
「……来ないほうがいい」
「何故です?…お疲れでしょう?荷物だけでも、」
「いいですから…!」
「…っ」
「……来ないでください」
ハッキリとした拒絶だった。
初めて聞いた、彼の語気の強い声に体が強ばる。
……殺気だ。
この違和感は殺気なんだ。
纏っている血の匂い。怪我をしたのだろうか。
これ以上近寄ったら、私はどうなるのだろうか。
____殺されるのだろうか。
本能に近いところで警鐘が鳴っている。
グッ……とキツく下唇を噛んだ。
下ろした手に力が入る。
あの少しの距離なのだ。
暗がりでも彼の姿がぼんやりと見える。
得体の知れない黒い斑点が飛び散ったような地図を描く彼の足元。
目線をそこから上げていけば、まるでダルメシアンのような斑模様。
サングラスに乱れた髪がひと房かかってしまっていた。
肩で息をする彼の様子は、殺気を纏いつつも儚げで、私は思わず息を飲む。
それと同時に、とてつもなく馬鹿らしいと思ってしまった。
何を怖がる必要がある。
殺気が何?
大きい声を出されたから何?
ついさっきまで彼を支えるだのなんだのと息巻いてたのはどこの誰です?
私でしょう?
震えた足を1歩踏み出した。
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黒猫25 - ただただ感動しました。七海さん、推しなのでとても嬉しいです!ありがとうございます (2022年4月19日 22時) (レス) @page47 id: 270b34836a (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - 六花さん» コメントありがとうございます…!七海さんらしい、という言葉が何よりも嬉しいものでございます。夫婦は似るもの、という言葉に倣ったエンドにしたかったのです。ハッピーエンドと感じていただけたのなら光栄でございます。本当に、ありがとうございます! (2021年4月15日 8時) (レス) id: 6d2f9f581f (このIDを非表示/違反報告)
六花 - やっと七海さんらしい夢小説に出会えました。悲しくてさみしくて読みながら泣きました。終わり方もとてもよかったです。旧住まいに戻りそこから未来が続いていくと感じられたところが特に。最後の電話のやり取りなんて堪らないです。ハッピーエンドだと感じました。 (2021年4月13日 18時) (レス) id: 001585b729 (このIDを非表示/違反報告)
タロ。(プロフ) - マリイさん» あなた様の解釈に一致していれば幸いでございます。通りすがりにでも一読していただき、誠に有難うございました。 (2021年3月7日 18時) (レス) id: 6d2f9f581f (このIDを非表示/違反報告)
マリイ - 建人は私の夫 建人の方からプロポーズして来た建人は私が居ないと私に愛されてないと建人死んじゃう建人は私には超過保護 (2021年3月7日 11時) (レス) id: 421640d4d1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タロ。 | 作成日時:2021年1月28日 2時